四天王と裁縫部部長と私とこんにゃく鍋

 新しい部活の登録に伴う本能字学園の戦力状況の分析、及び現状確認。あと新しい部活登録に伴う家族構成のチェックのほかにそれの登録。いくらコンピューターですべてが自動的に一括登録できる時代だからといって、最終的にチェックするのは人力だ。人の頭にそれら情報を叩き込まなければならない。だって策士やリーダーってそういうものじゃん?
 私もだけど、乃音先輩と蟇郡先輩はすでにダウンしていた。パソコン関連の徹夜ならお任せの犬牟田先輩に至ってはピンピンだ。なんでだよ、一緒にダウンしようよ。仮眠取ろうよ……。
「安心しろ。俺は寝袋さえあればどこでも寝られるからね。君たちとは違うのさ」
 そうですか。なぜか心の内を読まれた。
 顔を上げれば、乃音先輩も私と一緒に机に突っ伏していた。蟇郡先輩は、目を覆って天井を見上げていた。やっぱりいつみても大きいですね。そして猿投山先輩はといえば、いない。
 姿を見かけない。
 犬牟田先輩に聞いてみた。
「その、犬牟田先輩。先輩は?」
「え? 先輩?」
「猿投山先輩のことです」
「あぁ、猿投山ね。アイツならさっき、キッチンに行ったよ」
「キッチン……」
「なにかが足りないとかぼやいていたような気がするけど……。まっ、気のせいだろ。猿投山のことだ。どうせインスタントラーメンを作っているにちが」
「おーい! みんなお待ちどうのこんにゃく鍋が出来上がったぜ!! 嬉しいだろ!?」
 ドーン! と扉を足で開けて登場した先輩に、思わず犬牟田先輩と一緒に固まった。
 先輩の声に起こされた乃音先輩と蟇郡先輩が不機嫌そうに起きる。ゆっくりと先輩の手にあるこんにゃく鍋を見たあと、不満そうに声をあげた。
「山猿さん。アンタって、ほんっとうに馬鹿ぁ? どーしてこんにゃく鍋なのよ! こんにゃくを茹でるだけならアイスかなにか買ってきなさいよ、もーっ!!」
「あぁ!? こんにゃくを馬鹿にするつもりか! 蛇崩ぇ!!」
「別にこんにゃくを愚弄するつもりはない。ただ、なんというか、はぁ」
「先輩のチョイスにみんなが呆れかえってるんです。先輩」
「な、なんだって!? 千芳、お前だけは味方だと思っていたのに!」
「すみません、先輩。さすがに、乃音先輩と同じです」
 アイスクリームか栄養ドリンクがほしかった、というと、タイミングよく伊織先輩も来た。
 何徹目なんだろう。伊織先輩の髪はぼさぼさで、目の下にはすっごい隈ができてる。
 手元の紙からして、新規登録した部活の極制服のデザインとか性能もろもろの案がまとまったんだろうな。
「おい。ビリヤード部極制服のデザイン案が固まったぞ。って、なんだそれ」
 あ、気付いた。先輩は少し嬉しそうだ。
「お、よく気付いたな! 伊織!! これぞ猿投山こんにゃく本舗直送によるこんにゃくパラダイス! さぁ、食え!!」
「いや、こんにゃくだけっていうのは味気ないだろ……。いや、でも食べるか」
「は!?」
「ちょっと、本気なの!? アンタァ!」
「本気も本気だ。なにせ、ここ最近ろくに食べてなかったからな……」
 カロリーメイトにも飽きたところだ、と伊織先輩はぼやいた。
「ま、それには俺も賛成だね。レーションばかりだと味気ないから」
「犬くん、アンタは非常食を食べてたわけぇ!?」
「見くびるなよ、蛇崩。軍用レーションは少量でも結構栄養素が高いんだぜ。ま、味に難点があるけどね」
「げぇ、食べたくないわぁ」
「でも、食べないといけないときはありますし……。先輩、すみません。私も貰えますか?」
「お! 千芳もようやくこんにゃくの素晴らしさに気付いたか! いいぞ、たぁんと食え!!」
「ポン酢お願いします」
「あぁ。鍋にポン酢は付き物だもんな。他にも調味料はあるぞ!!」
「ちょっと、紅葉おろしがあるなら先にいいなさいよ! あら、京都紅葉おろしじゃないのね」
「ここにある分を持ってきた」
「あー、柚子胡椒がないのか。じゃ、俺はレモンでいいや」
「俺もレモンで貰おうか」
「俺は文月と同じポン酢で」
「おう! いいぜ!! ちょっと待ってろよ! 今、準備してやるからな!!」
 あ、優しい。先輩、優しい。先輩はチャチャッとオーダーが入った分のお皿にそれぞれの調味料を足してくれた。「気の利くお手伝いさんねぇ、アンタ」と乃音先輩がぼやいた。
 とりあえず、「他に食べるものがないので、みんな先輩のこんにゃく鍋で我慢してるんですよ」の旨はいわないでおいてあげた。
 一口食べる。
「あ、美味しい」
「すきっ腹になんとやら、だね」
「空腹は最高の……、だな」
「なにも食べないよりはマシだわぁ。あら、美味しい」
「うん、少し味気ないが……。食べれる、食べれる。栄養ドリンクよりは美味い」
「だろう!? もっと食えよ! おかわりはたぁんとあるからな!?」
「え」
「いや、いい」
「流石にないわぁ」
「せめてこんにゃく以外も入れろぉ!」
「鶏肉は入れてくれ」
 各々好き勝手いった所為か、先輩はちょっとしょんぼりとしてしまった。
 可哀想だから、みんなでわいわいと鍋を作った。とても美味しかった。


 皐月様に出す資料にお汁をこぼして、みんなで絶叫したのは内緒だった。
 泣きたかった。すごく、泣きたかった、です……。うぅ。

「結局徹夜しちゃった……。あーん、お肌のお手入れが大変じゃなーい!」
「私、寝たい……。すごく、寝たいです……」
「流石に目を休ませたい」
「右に同じ」
「臥薪嘗胆日々戦場常在心戦場也。不眠ふきゅ、ぐはっ」
「ぐがー」
 先輩はとっくのとうに鼻提灯つくって寝てた。鉛筆の先で突いて破裂させても「んがっ」と寝言をいうだけだった。「よくそんな汚いものに触れるね、君」なんていう犬牟田先輩の小言は流しておいた。

 こんにゃく鍋で一騒動あったけど、無事皐月様に出す書類が出来上がってよかったです まる。


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