電気が落ちた(先輩と)

 最近の天気予報は外れると聞くけど、今回のは大当たりだ。暴風雨が窓を叩き付ける。激しい雷雨で街中が停電になり、手探りで暗闇の中を探すばかりだ。SNSの通知がスマホにくる。
『そっちは停電のようだけど大丈夫か?』
『アンタんとこ大丈夫なの?』
『大事ないか』
 ポンポンと出る通知と引用された情報に反応を送って、電源を落とす。バッテリーの消耗は避けたい。なのに先輩は呑気にスマホを弄っている。
「あの、少しは節約してくださいね?」
「ん?」
 なにがだ、といいたげな顔に脱力する。先輩にとっては『無駄な行動ではない』と思いたいところなんだろうが、私は違う。スマホのライトで懐中電灯を探し、それを灯りにする。うっすらと懐中電灯の周りだけ明るくなった。
「こうすると明るくなるって、書いてあったぞ」
 台所に行った先輩が、グラス片手に戻ってくる。いったい、なにをするんだろう。私が出した懐中電灯を立てて、その上にグラスを置いた。濡れないんだろうか? の心配をよそに、明るさが増す。
(まるでLEDライトのランタンみたい)
 グラスからペットボトルに差し替える。
「おっ」
 さっきより明るい。一旦置いて、懐中電灯を拭く。そしてまた置く。
「しばらく復旧しないらしいぞ」
「マジですか」
「マジだ」
 体力の消耗を避ける私と違って、先輩はもう動いている。またスマホのライトを使って、なにかを探している。私も、なにかを探した方がいいんだろうか。今の季節だと寒くなるのも早い。
 ランタンの光が届く範囲で、探す。ひざ掛けとクッションがある。暖を取るには些か頼りない。
(どうしよう)
 そう思っていたら、バサッと肌触りのいいものが降ってきた。
 手繰り寄せて、頬に摺り寄せる。感触を確かめていると、後ろからそれを引っ張られた。
 振り向くまでもなく、慣れた感触が背中にきた。
「っと」
 腰を引き寄せられ、空いた足の間に腰を下ろす。そのまま先輩の腕の中に座り、毛布を引き寄せた。
「俺も寒いんだぞ」
「私も寒いです」
 どちらかというと、私の方が寒波に当たってる。
 だって先輩は私で暖を取ることは可能だし、私を抱えている足や腕を除いては温かくなってるっていうのに、私は前面で寒さを受け取ってる。じゃぁ、毛布を寄越せって話だ。
 でも、先輩と私の二人分の長さで足りない。グッと背中を先輩に押し付ける。
「もう少し離れろよ。喉にくる」
「じゃぁ丸まる」
 ギュッと体を丸めたら、先輩も釣られて丸まった。
「意味なくないですか?」
「さびぃんだよ」
(さっき痛いとかいってなかったっけ?)
 喉仏は痛い。それが頭に当たっていたのだから、それで痛いものだと思っていた。けれども一点の痛み以外、それはないらしい。
 先輩の顎が頭に乗る。それを軸にして、先輩は自由に動いた。湯たんぽの私は引き寄せられる。毛布のせいもあって、聞こえる音が少なくなった。
(先輩のしか、聞こえないや)
 ドクンドクンと自分の煩い心臓音も、先輩の穏やかな鼓動も呼吸音も、それしか聞こえない。リラックスしている割には、腰になにか固いのが当たるけど。
(気のせい、かな)
 ゆっくりと目を閉じる。体力の消耗も避けたいから、温存する。起きてるつもりなら、甘えるのもいいだろう。先輩の深い吐息が、耳に届いた。
「さびぃなぁ」
「さぶいですねぇ」
 言い方が釣られた、と思いながら恥ずかしさを隠すように毛布に潜り込んだ。
 グッと引き寄せ、先輩の腕に顔を埋める。「くすぐってぇよ」というけど、やめたくない。先輩の匂いを肺の奥まで嗅ぎ、気持ちを落ち着かせる。
 やっぱり、恥ずかしさは治まらない。
 ムズムズとした歯痒さを感じながら、先輩の腕に軽く歯を立てた。
「痛くねぇぞ」
「甘噛みですから」
 他にいい言葉がなかったのか? そう自問しながら、居座り直す。
 先輩の腕がお腹に食い込む。少し苦しいです、といったら「わりぃ」と返された。
 少し軽くなる。ムクムクと大きくなるの、さっきより硬くなった。けれど先輩はドキドキしていないし、寧ろしているのはこっちだ。
 なんか分の悪さを感じて、先輩の胸にさらに耳を押し付けた。
「なんだよ」
「別に」
 返す先輩に悪戯に返す。毛布の中は温かいし、先輩の匂いはリラックスするしで、段々と眠くなる。先輩が居住まいを直した音がした。
 耳や首筋に、生温い吐息がかかる。深く、息を吐いたんだろう。目を開けてまで先輩の顔を確認する気力は、ない。
 見つめる先輩の視線を感じながら、少し寝る。ふと、チカチカと蛍光灯が切れるような光がきた。
「あぁ、クソッ」
 落胆するような先輩の声と同時に、電気が戻った。


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