あるときの日常(卒暁後)

 RTAに挑戦してみるが、中々上手くいかない。猿投山が投げ出した。
「ちっくしょぉ! こんなの上手く行くわけねぇだろ!!」
「頭で分かっていても、中々。上手く行きませんね」
「元々、RTA走るにも結構なやり込みがいるからねぇ」
「やだっ! 失敗しちゃた」
「そもそも、コンロトーラーが小さすぎないか? これ」
「蟇郡の場合は特注で作ってもらう必要がありそうだけどね」
「なぁ、千芳。こんなのやめて、別のことしようぜ? こっちの方が面白いだろ?」
「そうですね。ちょっと今、いいとこだから」
「おっ、さっきより短縮できた」
「うーん、でも一位にはまだ遠いわね」
「操作が、覚束んッ!!」
「ちぇっ。なら、もう一回やってみるとしますかね」
「そうしてください。あっ」
「あっ」
「あー!! やだ、操作ミスっちゃったじゃない!」
「おっ! こうか?」
「猿投山、文月と話すの禁止」
「猿くん、ちょっと黙ってて」
「どうしてそうなるんだよ!?」
「しまった。こうなると、ミスが」
「んっ、取り返した」
「どっちかっつーと、蟇郡に吸われてる方だろ。運が」
「うるさい」
「あー、もう。気分が削がれちゃったぁ」
「リセットした方が早いですね。これ」
「なるほど。こういう面白さがあるか」
 段々とのめり込む蟇郡とは反対に、犬牟田・蛇崩・文月の面子は一旦中断する。煮詰まったのだ。一旦ゲーム機を置いて、休憩を挟む。犬牟田と蛇崩から黙れといわれた猿投山は、納得が行かないようだ。非難轟轟に二人を見ている。
「人に黙れといった癖に、自分たちはもう切り上げるのかよ」
「黙っててくれないか? こういうのは、一旦休憩を入れた方がいいんだよ。熟練度が上がる」
「それに根を詰めても、どうしようもないものはどうしようもないからね。なにか頼みましょう?」
「ピザでも、頼みましょうか。割り勘で」
「むっ! ここが難しいな」
「いいね。五人だから、一枚頼んだとしても一人当たり七百から八百円くらいだ」
「犬くん、この猿とガマの胃袋を忘れてない? Lサイズ二枚じゃないと持たないだろ」
「私としては、色々なバリエーションを楽しみたいところですが」
「それだと割増になっちまうだろ。クワトロの方がお得だぜ?」
「じゃ、それにしますか」
「なるべくカロリーが低くて美味しいのがいいわね」
「蟇郡。君、なにを食べる?」
「ん? あぁ、お前たちの好きなものを頼んだらどうだ?」
「そっか」
「んじゃ、千芳の好きなもんを頼むとしようぜ。それかこんにゃくに合いそうなもんだな」
「その二択、やめてください。選択肢がない」
「まさか、こんにゃくが常備、いや。この男ならあり得る。すぐに食べれる状態で冷蔵庫に入っていそうだな」
「おっ、正解だぜ! こんにゃくの甘辛煮にピリ辛炒め、味噌煮もありゃぁおかか煮もある! 旨煮もあったりするぜ? ピザの代わりに食うか?」
「遠慮しておく」
「ガチなラインナップじゃねぇか」
「ついでにこれ、作ったのがほぼ先輩一人ですからね。私は少し手伝っただけです」
「ここでこうすればいいのか。ふむ」
「流石はこんにゃく屋の息子というべきか。メガセットにしておく? ピザ二枚とサイドの三品で四四九九円」
「あら、お安い」
「単品二枚ずつ買うよりお安いですね」
「じゃ、それにしようぜ」
「んっ、決まったのか?」
「あぁ。次はサイド。なにか希望はあるかい?」
「パーティーサイズが良くないか?」
「おっと、適応外」
「じゃぁ、楽しく食べるヤツがいいですね」
「これとこれね」
「んじゃ、注文な」
「注文するの、俺なんだけど?」
 そういいつつ、蛇崩と文月が選んだものをカートに入れる。それから、注文確定を押した。今から配達が終わるまで、二十五分ほどかかる。瞬時に犬牟田は全額を全員で割り振った額を弾き出す。
「一人当たり、八九〇円。切り上げは手数料計算でよろしく」
「このドケチッ!」
「ま、仕方ないですね」
「やべっ、千円札しかねぇ」
「釣りはあるか?」
 蟇郡の問いに、犬牟田は自分の財布の中身を見る。ごちゃごちゃとしながら、ピザが来るまでの間を待った。


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