玉こんにゃくの反省会(卒暁後)

 今日は月が綺麗である。部屋から見える月を肴にして、猿投山は炒めた玉こんにゃくを食べる。一方、千芳は形が崩れて出せなかった月見の団子を食べていた。無論、上新粉や白玉粉にこんにゃく粉を混ぜて作ったタイプである。
「そう落ち込まないでくださいってば。わかってたことじゃないですか」
「うるせぇ」
「そもそも」
 ヒョイッと一口サイズの団子を放り込む。中の餡子が美味い。包み込むのに苦労したものだ。猿投山を慰める言葉を考えながら、千芳はいう。
「団子はオヤツ、こんにゃくはオカズ感覚で食べるものだし。一緒のフィールドで戦えないでしょう?」
「確かに、こんにゃくは食卓のおかずとして最強ってことは認めるがなぁ」
「そこまではいってない」
「いわせろよ」
「はいはい」
「野菜だって、ケーキとかになるんだぜ? だったら、こんにゃくだってできるだろ」
「それは摩り下ろして生地に混ぜたり、ペースト状にして原型を留めてない場合ですね。唯一の例外が栗ですよ」
「お前、本当に」
 ジト目で涙目で、猿投山が千芳を見上げる。テーブルから頬を離そうとしない。
「俺に詰め寄るときは、敬語になるのな」
「なにかご不満でも? 少しは言葉尻が柔らかくなってるじゃぁ、ないですか」
「挑発してねぇか?」
「さぁ、どうでしょう。あぁ、お茶煎れます?」
「あぁ、緑茶か?」
「そりゃぁ、もう。団子を食べてるから」
 そういって、千芳は立ち上がる。猿投山は身体を起こし、頬杖を衝きながらそっぽを向いていた。キッチンへ向かう気配だけを感じて、ボソリという。「やっぱ、そっちの方がいいぜ」顔が赤い。照れを押し殺していった一言に、千芳は振り向きもせずいう。「そうですか」キッチンに入り、急須を取り出す。お湯を沸かしている間に緑茶の筒を出し、葉の重さを量った。電子計量スプーンで数値を見ながら、リビングの様子を見る。猿投山は爪楊枝で玉こんにゃくを食べながら、月見をしていた。お湯が沸騰する。急須に茶葉を入れて、お湯を注いだ。蓋をして蒸している間に、湯飲みをリビングに運ぶ。猿投山が気付いて腰を上げる暇もなく、千芳は急須を運んだ。
 トクトクと、二つの湯飲みへ均等に注ぐ。注ぎ終えると、千芳は自分の席に座った。「サンキュ」猿投山は自分の湯飲みを引き寄せ、緑茶を飲む。渋味と旨味の間に、苦味がある。甘味も少し顔を出したが、所詮スプーンの先端一粒程度の僅かだ。日本人であるからこそ、緑茶が食卓に合うと感じる。
「なんか」
 千芳も爪楊枝を抓み、玉こんにゃくを刺す。団子と違い、簡単に味を付けただけのものだ。口に放り込んでも、惣菜の感覚に近い。
「酒のツマミとか、そういうものには使えそうですよね」
「ビールとか、缶ビールとかが似合うっていうのかよ?」
「んっ、こんにゃくのみで甘味とかは、黒こんにゃくのままだと無理そうだし。工夫をしないと」
「ちぇっ。黒こんの見た目でも美味ぇのによぉ」
「それ、外では『こん』って略さない方がいいですよ。コンクリートと誤解されるから」
「そりゃ、お前だけだろ」
「そうともいう、けど」
「ところで、よ」
 ボソリと猿投山はいう。またしても顔が赤い。
「敬語かタメか、どっちかにしてくれねぇか? すげぇ、キスがしたくて堪らなくなる」
「我慢してください」
「泣くぞ。結構我慢してんだぞ、これでも」
「じゃぁ、どのくらい?」
「そりゃぁ」
 千芳の尋ねた提示に、ポツリと顔の赤みが増す。ポリポリと頬を掻いて、猿投山は恥を忍んで答えた。
「敬語とタメで使い出した頃くらいから、だな」
「へぇ」
(どこまで惚れてるんですか)
 そう意地悪なことを聞きたいが、これ以上落ち込ませるようなことはやめよう。千芳は自制し、緑茶を飲む。チラリ、と部屋から見える月を見た。
「月が、綺麗ですね」
「おう。今日は綺麗らしいぜ。八年ぶりがどうとか」
「へぇ」
 猿投山は別の意味が込められていたことに気付かない。千芳も遊び半分で仕込んだことだ。ある有名な文豪が月夜の晩に告白したことを、猿投山は知らなかった。知る者ぞのみが楽しめる遊びである。
 もう一口緑茶を啜る。「今度、ボードゲームとかやってみますか。気になるものがありまして」「あ? 本能字学園の連中からかよ」「いや、以前から気になっていて。確かに文化部の方にいたけれど」「ふぅん」猿投山のジト目は終わらない。
「ただ、一緒にやるのが面白そうだなって」
「は? どういう意味だ、それ」
「渦と一緒じゃなきゃ、楽しくやれなさそうだなって思っただけ」
 どこか寂しいというか。そう続ければ、猿投山の顔がボッと赤くなる。視線を逸らして暫し「そうかよ」と素っ気なく頷く。「まぁ、うん」千芳も話を濁らせた。
「ボードゲーム、してみたいのは本当」
「そーかよ」
「やってみる?」
「千芳がしたいんだったら、いいぜ」
「そりゃあ、もう」
 一気に距離を詰めようとした猿投山の肩を押さえる。「そうじゃなくて」「チッ」ドサクサに紛れて言質を取れると踏んだ猿投山が、舌打ちをした。
 空気の読めなさは続く。


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