洗濯物を干す ‐ 室内(卒暁後)

 天候が悪い。(防犯の都合もあるし)部屋干しでいっか。と千芳は判断した。なにせ、男物の下着を含めて泥棒する犯罪者が出没している。念入りに警戒しても損はない。洗濯機から洗い終えたものを取り出し、カゴへ一纏めにする。リビングに運ぶと、床の上に置いた。部屋の隅に向かい、物干し竿を出す。今からリビングは部屋干しの間と化す。広い窓枠の上にフックを付けようとするが、できない。千芳の身長だとできなかった。それを見兼ねた猿投山が、ヒョイッと助け船を出した。千芳の手からフックを取り、窓枠の上部に取り付ける。
 カチッと音がして、一つが固定された。
「これくらいでいいか?」
「うん、ありがとう」
 猿投山が取り付ける横で、千芳は物干し竿を伸ばした。すかさず猿投山にもう一つ渡し、かけられる状態にする。それを猿投山は無言で受け取り、端から端にまでかけられるようにした。
 千芳が爪先を伸ばす。その挑戦は無駄だろうと見兼ねて、猿投山が物干し竿を取る。自分の取り付けたフックに引っ掛けて、洗濯物を干せる状態にした。
「これでいいのか?」
「うん」
 自分がしようとしたことを取られて悔しいのか。頷いた千芳の声が沈む。それに悪いと思いつつ、猿投山は洗濯物を干すことを手伝った。千芳が別のフックを取り出し、猿投山に渡す。「ちょっと、端の方に」「おう」慣れた手付きで指示に従った。物干し竿から直角に、フックが伸びる。そこに千芳がピンチハンガーを引っ掛けた。カーテンに擦れることはない。猿投山が洗濯ネットから洗い終えたものを出す横で、千芳はハンガーを運ぶ。必要な分だけを置くと、自分も洗濯ネットから洗い終えたものを出した。なんてこともなさそうに、猿投山は自分と千芳の下着を出す。千芳も特に気にすることもなく、自分と猿投山のシャツを出した。体格差がある分、服のサイズも異なる。「これ」猿投山が千芳のブラジャーを出す。「干した方がいいか?」主語を省略したものに、千芳が手を伸ばした。「いい」こういうのは、形が崩れやすい。ハンガーを通す作業を中断し、千芳は立ち上がる。ピンチハンガーのハサミを広げ、一つずつブラジャーの下を抓んでいく。肩紐が床に垂れ下がった。それを猿投山は無言で見る。続いて千芳が自分たちの下着に手を伸ばした。これを受けて、猿投山はハンガーを通した洗濯物を腕にかける。自分は物干し竿に洗濯物を干すことにした。
 身長と体格に合わせて、洗濯物を干すポジションを変える。(なんか、良い感じの干し方ないかなぁ)布団を干したときに使ったスタンドを思い出す。(千芳がやりやすいように、なんか工夫した方がいいか?)猿投山は別のことを考える。
 干し終えると、千芳は尋ねた。
「ところで」
「あ? なんだよ」
「走りに行く、ところだったのでは?」
 その質問に、ポツンと穴が空く。(そこまで非情に見えるのかよ)そう不満を抱きながら、猿投山は答えた。
「おう、そのつもりだぜ」
「そう。なら、手伝ってくれてありがとうございます」
「どういたしまして、だ。っつーか」
 すかさず反論する。胸を張った猿投山に、千芳は不思議に思う。
「困ってるのに見過ごせるかよ。ちったぁ考えりゃぁわかるだろ」
 そうつっけんどんにいったことに、千芳はポカンとする。暫く、考えて自分の誤解に気付く。ボッと顔を赤らめ、両手で頬を押さえた。
「え、えーっと、ありがとう」
 嬉しさと照れ臭さとで体温が上昇した中、恥ずかしさを堪えて礼をいう。それを見せられては、思考が抜けざるを得なかった。「おう」数秒の間を置いて、答える。返事はしたものの、今から走りに行くにしては気が向かない。別の運動をしたいくらいだが、修行にはならない。
 少し考える。恥じらう乙女のように顔を赤らめる千芳を前にして、決意が揺らがないわけはなかった。


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