理解の及ばぬもの(在学中・心眼通)

 纏に敗北した猿投山は己の傲慢となった両の目の光を捨て、新たな光を得て纏を圧倒した。まさしくあれは『圧勝』というべき試合であった。極制服のオーバーヒートという予想外のアクシデントがなければ、猿投山の勝利で終わっただろう。その折、『心眼通』という新たな技を会得したらしい。これは犬牟田のデータベースに入っている情報だ。──視覚を封じた代わりに他の五感が鋭くなり、極制服が猿投山の目となる。直観も入れれば六感なので、計算としては間違ってはいない──。(もう少し情報がほしい)部活と部長の大量生産とで、劣悪な兵力が増産されている。(いったい、皐月様はなにを考えているのやら)流石に夜間となると静かになるが、昼間は騒がしい。打倒纏流子のために倒される部長は数知れず。潰れた部活も数知れずだ。この辺りは文月が詳しいだろう。
 静かな夜の学園を歩く。情報戦略部室にストックした食料が切れたのだ。(また注文しないと)口元まで覆う襟がパカッと開き、はぁと溜息を吐く。そんな中で、猿投山と文月が話しているところを見つけた。暗闇の中で、なにかを手にしている。猿投山にはわかっていないようだ。文月がその手を掴み、手にあるものを触らせている。犬牟田の視界から、その手にある正体が見えない。野次馬精神で、二人に近付く。なぜ乱入しても無事だろうと考えたかについては、なにか淡い光が見えたからだ。
 ひょっこり顔を出す。
「やぁ、お二人さん。こんな夜中に出会うとは。奇遇だねぇ」
「あぁ、犬牟田先輩」
「なんだ、お前かよ。なにか用か?」
「いやいや、二人してごそごそしているのが気になってさ。で、なにしてたわけ?」
「いや、先輩の触感の度合いを確かめていたわけで」
「俺はそれに付き合っていただけだ」
「はぁ、それで? 理由を聞こうじゃないの」
 俄かには信じがたい。なにせ、その手にあるもので度合いが量れるか? 基準にする価値もわからない。そう呆れ返る犬牟田に、文月は説明を続ける。
「あぁ、光の感じ方ですよ。といっても、変身をしなければ視覚的なものは獲得していなさそうですが」
「視覚じゃない。心の眼だ」
「はいはい」
「その脳が処理した結果の映像を、文月が『視覚的なもの』と例えただけだろう?」
 やれやれ、と両手を挙げる犬牟田に、猿投山が「うん?」と視線を向ける。即座、犬牟田は猿投山が理解していないことを理解する。「知らなかったのかい?」「いや」明らかに言葉を濁したことを見るに、図星だ。米神を押さえざるを得ない。
「で、結果は?」
「光は皮膚の感覚で疑似的に察することができるみたいですね。熱源、というか」
「あぁ、日向と日陰の違いくらいはわかる」
「当たり前だろ。地球上に存在するエネルギー法則に当てはめれば、熱源を持つ物はイコール、熱を持つ。熱を感知する──いや、シナプスの接続か。猿投山の視力が失った代わりに他の感覚器官が補って」
「そういうことです。触覚で物の形がわかるようですし」
「流石に無機物までになると、音や風の反響を使わないとわかりにくい。真空状態だと、詰むか?」
「真空状態でも、多少は音が反響するだろう。というか、人間だと死ぬよ? 宇宙ステーションにすら酸素があるというのに」
「じゃぁ、大丈夫ですね。人間が生きれる環境下でなら」
「やはり、俺の心眼通から逃れるものはいない!」
「まぁた以前のが出てないかい? はぁ。その実験で、それねぇ」
「えぇ。ちょうど落ちてたものですから」
「落ちてるものかい? 普通」
「さぁ。突拍子もないワケの分からない部活動が乱造していますし、誰かの落とし物なのでは?」
「部長の乱造といえば、最近は判子を押すしかしなくて楽だな」
「機械だと駄目ですからね。紙でも字をなぞらないと駄目。口頭で指示した方が楽ですよ」
「君も大変だね。コイツが最先端の機械を使えるとも思えないし」
「あ?」
「おっと! 使えたとしても、ちゃんと当てないと無理だったか。なにせ、画面だと全くなにも見えないようだからねぇ!」
「文月、お前!」
「すみませんって。でも事実じゃないですか」
「あのなぁ!!」
「あー、はいはい。そういうのは犬でも食わないんでね。退場させてもらうよ」
「あぁ、お疲れさまです」
「おい!! 無視をするな! 無視を!!」
 また見慣れたやり取りに戻りそうなので、犬牟田はその場から去った。こういったやり取りは既に収集している。既読に用はない。食料のある場所へ向かう。会話で空腹を紛らわせたものの、やはり光るボールであれらを測るなど、まったくわからなかった。


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