背が伸びた先輩と生徒会(在学中・一年)

 ここ一ヶ月で、猿投山先輩の極制服の直しが多い。だからか、暫くは三つ星と同じくらいの量を練り込んだジャージを着ることになった。緑色である。「運動部だから、ってな!」ヘヘッと得意そうだが、話は違うだろう。少なくとも、猿投山先輩を除いた伊織先輩や犬牟田先輩の懸念の材料は違う。生徒会の威厳に関しては蟇郡先輩だろうが、そもそもあの人、身体のサイズが変わることなかった? 物理的に。そう考えながら、目線の高くなった先輩を見上げる。
「急激な、成長期?」
「あぁ。これで、お前を見下ろすのもそう遠くはないな!」
「もう大きくなってますけど」
 顎を少し上げる始末だ。そう伝えると「あ、あぁ」と先輩が気まずそうにいった。少し目を逸らしてるし、顔も赤い。どこが悪いんだ。特に発言に不備はないというのに。フンッと腰に手を当てる。胸を張って、先輩にいった。
「それでいるのは、どのくらいなんです?」
「あ? 三日かそこらだな。伊織がいうには、簡単に裾直しができるようにするらしい」
(つまり徹夜で突貫すると)
「極制服の縫合自体は特に変えないって話だぜ」
「テストしてるんでしょうねぇ。それにしても、どこまで伸びるんですか。背」
「さぁな。この辺りは伸びしろに期待、ってとこだな」
「誰が上手いこといえと。まぁ、問題はコートですね。丈の長い学ランというか」
「長ランじゃないぜ。その証拠に、襟元が立ってるだろ?」
「違いがわかりませんね」
「舎弟たちは結構してたぜ? まっ、伊織ならどうにかするだろ」
「他人任せですね」
「極制服を縫うことに関しては、てんで門外漢なんでね」
「はぁ。せめて身長がどのくらいで止まるかがわかればいいのに」
「止まってたまるかッ!! せっかくだから、イメチェンでもするかね。髪も下ろしたりして」
「あぁ、下ろした方がいいかも。そっちの方が似合いますよ」
「えっ」
「あとは極制服に合うようなコーデをすれば完璧ですね。あぁ、生命戦維三十パーセントが入っているから、インナーは考慮しなくてもいいのか」
「ちょっと身体鍛えてくるわ」
「え?」
「探すなよ。用事があったら、こっちから行く」
「いや、色々と業務とかがおこた」
「ちゃぁんとやる。気にするな!」
「いや、やらないから気にするのであって」
 あー、駄目だ。行っちゃった。あの人、本当話聞かないときは聞かない。はぁ、と脱力さえしてしまう。(まぁ、あぁいわれた以上、しばらくは触らない方がいいかな)元々、独自で鍛錬とか特訓する方が多い。というか、生徒会四天王に至ってはそれが通常だ。風紀部委員長も文化部統括委員長も情報戦略部長も運動部統括委員長も、全員単独で動いている。ただ、デスクワークにおいては、運動部統括委員長の方が滞っている。
(本当に大丈夫なのかな?)
 不安が消えない。暫く先輩と会わずに過ごす。私も私で色々とやることがあって、ザッと一ヶ月。久しぶりに生徒会の集合がかかって足を運んだら、道中で先輩と出会った。(なんか、さらに大きくなったような)なんか、着方もさらにワイルドになっているような気がする。(確かに、昔よりは大分筋肉が付いていたとは思ってたけど)まさか、数ヶ月でここまで筋肉が付くなんて。思わずマジマジと見てしまった。当の見られている本人はというと、「ムンッ!」といいたげに腕を組んでいる。丸太のようについた筋肉を見せびらかしていた。思わず手を伸ばしかけて、引っ込める。
「いいのかぁ? 触りたかったんじゃないのか? え?」
「なんですか。急に見かけなくなったと思ったら、いきなり大きくなって。ドーピングでもなにかでもしたんですか」
「してねぇよ。強いていやぁ、北関東秘伝のこんにゃくだな! おっと、なにも秘伝中の秘伝じゃねぇ。猿投山こんにゃく本舗より造られるこんにゃくのことだぁ!!」
「はいはい。あぁ、でも。極制服の修繕は間に合ったのですね。修理というか、変更というか」
「あぁ。少々丈直しとかもあったけどよ。伊織が予め、俺の背が今後伸びてもいいように合わせてくれたおかげで、当分は通わなくてよさそうだ」
「そうですか」
 通ってたのか、と思いつつ頷く。でも、全体的に筋肉が付いているな。いったい、どういう訓練をしていたんだろう。先輩にいわれて以降、蟇郡先輩や蛇崩先輩にいわれない限り、三つ星専用体育館やエリアに近付かないようにしていたのに。見上げる度に首が痛い。今度、伊織先輩に極制服にヒールをお願いしようかな。いや、それだと機動力が。改善点がありすぎる。うだうだと考えていたら、グッと先輩が近付いてくる。うぐぐ、いるかのお返しか!?
「どうだ? 羨ましいだろ」
「う、うらやましくなんて。私だって、追い越してやりますからね!!」
「はー? 期待だけは、してやるよ。どうせ無理だろうけどな」
「うーっ!! 勝てない癖に!」
「不意打ちはやめろ!!」
 といっても、普通に避けられないそっちが悪いと思う。背中を見せたら死だと思え。アキレス腱をピンポイントに狙ったら、先輩が膝を衝いた。当たり前である。切れば立ち上がることはおろか、歩くことすらもできなくなるし。「背が縮みましたね」と嫌味をいったら「いってろ!!」と先輩に噛み付かれた。今日も吠える。先輩が立ち上がったのを見て、生徒会室に向かった。「いってて」と先輩が床に着いた膝を撫でる。そこまで? いや、成長痛なるものがあるかもしれない。私は、なったことないかわらからないけど。よく考えれば、夜中関節とかの辺りが痛く感じることは多いかもしれない。入ると、蛇崩先輩が既にいた。「あら、遅いじゃない」と専用のソファに寝転がって寛いでいる。蛇崩先輩専用のソファだからか、ぬいぐるみが相変わらず多い。そして、やっぱりいいな。キャンディボトル。あぁいうの、ほしいな。そう思ってたら、猿投山先輩が自分のソファに座る。「お前が早すぎるんだろ」ぞんざいにいいながら、テーブルに足を投げ出した。やっぱり長い。身長に合わせて、足も長くなっていた。テーブルの手前までなかった足が、今や端の方にまで伸びている。「あらぁ?」と流石に蛇崩先輩も相手にしたようだ。
「張り切ってイメチェンでもしたってわけ? 形だけじゃないといいわね」
「ほざけ! 俺が四天王の中で一番強いってのは、変わらないと思うぜ?」
「あんだって? 山猿如きが調子に乗ってんじゃないわよ。あーあ、皐月様の命令がなかったら、今すぐボコって土下座させているところなのに」
「ぬかせ。だぁれがお前なんかに倒されるかよ! お前の極制服なんて、ただの煩いだけじゃねぇか」
「なんですって!? クラシックの良さがわからない猿なんざ、こっちから願い下げよ!! 演奏中の私語は禁止だって、学ばなかったかしら?」
「悪いなぁ。俺は、騒音を聞くなんてマナーは持ち合わせていないんでね」
「ちょっと、先輩。それは失礼ですよ。逆に、ノイズさえどうにかできれば、演奏中に倒すなんて真似もできますし。可能性は無限大ですよ」
「お前、単純に蛇崩の演奏を聞きたいだけだろ」
「まーっ、失礼しちゃう!! だったら、文月には特別に! 貴方専用の特等席を用意してあげるわ」
「はいはい。じゃぁ、今度打ち合わせということで」
「うん? もう来てたのか。クッ、今度から一時間早く切り上げるべきか」
「早すぎるだろ。それ」
「こぉの、真面目過ぎるガマは! んなのされたら、全体的に集まるのが早くなっちゃうじゃない!!」
「誰が先に着くかで競争が起っちゃいますからね」
「それでも俺は、ギリギリまで情報収集なりを続けるけどね」
「うわっ。突然入らないで下さいよ。犬牟田先輩。驚いたじゃないですか」
「おいおい。さっきまで俺に気配の一つや二つを指摘した人間が、犬牟田さん如きの気配で驚くのかよ? 呆れるねぇ」
「なんだと? 今、俺を愚弄したよな? 猿投山。そんな口を利いて無事で済むとは、本当頭がおめでたいね」
「なんだって!?」
「俺が本気を出せばねぇ、君にあることないこと流布しまくって、一気に君の株を落とすこともできるんだぜ? おっと、君の場合は実力で叩きのめさないとわからなかったんだったか?」
「よぉく、わかったぜ。犬牟田、テメェも俺のことを愚弄しているだろ」
「あぁ、やられたらやり返すが信条なんでね。体力馬鹿や脳筋馬鹿にはなにをいっても無駄に終わるからね。口でいうより実力で黙らせた方が手っ取り早いんだよ」
「あーらら。犬くん、いつもより切れちゃってるねぇ」
「貴様らァッ!! もうすぐで皐月様が来られる時間帯になるぞ!! さっさと静かにならんか!」
「だったらテメェの方がどうにかしろ!! 蟇郡! 俺よりお前の方がよっぽど煩いわ!!」
「同感だね! 今ので俺の声量より君の声量が上回ったことを証明しようか!? 見ろ、この数値を!」
「知らんわ!! いいから、とっとと静かにせんかぁ!」
「いや、それ」
「本当、この馬鹿どもは」
 蛇崩先輩が大いに呆れた。皐月様が現れて、ピタリと静かになる。「どうした?」と皐月様がいうものだから「いえ、なんでもありません」と犬牟田先輩が素知らぬ顔でいう。それに先輩は「ケッ」と吐き捨てながら視線を外した。蟇郡先輩だけは「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません」と謝った。それに皐月様は「いい。いつものことだろう?」と、はい。見透かされていました。揃さんが紅茶を入れる。揃さんに淹れてもらった紅茶を飲みながら、皐月様が切り出した。カチャン、とコップが置かれる。
「そういえば、猿投山。急に背が伸びたな? 衣替えには早いだろう」
「成長期ってヤツですよ。昔より随分と背が伸びたもんでね。心機一転ってヤツですよ」
「そうか。外面だけでの成長ではないことを願うばかりだな」
「ご心配なく。ちゃんと貴方の期待に応えてみせますよ」
「そんなことより皐月様。集合をかけたということは、つまり?」
「ふむ。単純に、この目でお前たちの顔を見たいと思ってな。ついでに犬牟田、蟇郡。最近の各校の様子はどうだ? それに合わせて、学園の様子はどうなっている?」
「滞りなく。全員、皐月様に忠誠を誓っていますよ」
「ご安心ください。皐月様。反乱分子の摘出は、引き続き行っております」
「あぁ。警戒は怠るなよ」
「ハッ!」
「皐月様、文化部の方は安心してね。純粋に四国の方は制覇しているから」
「運動部の方も滞りなく。もうすぐで北九州を本能字学園の手中に収めることができましょう」
「あぁ、油断するなよ」
(意外とやってるんだなぁ)
 目から鱗である。「ところで、文月」皐月様が一服つくかのように、紅茶を口へ運ばれる。
「そちらも順調か?」
「はぁ、まぁ。そうですね。全体の六割は進んで、あとは三割が終えたら一割でフィニッシュ、というところでしょうか」
「おいおい、どうしたぁ? 随分と抽象的じゃないか」
「皐月様に求められたから報告したまでです。時機がきたら、教えますよ」
「へぇ。文月の方でも進んでる計画があると」
「まっ、皐月様の役に立つんなら、なんだっていいわ」
「失敗は許されんぞ」
「蟇郡、お前もな」
「そういう貴様こそ、そうではないのか? 最近の態度、目に余りすぎるぞ!! 皐月様の御前だぞ!?」
「だったら、テメェのクソでけぇ声も直すんだなぁ! 蟇郡!! 正直、蛇崩の大音量に匹敵するぜ? そのクソでけぇ声!」
「はぁ!? 私の音楽と一緒にしないでちょうだい! ねっ、皐月様!! 私の音楽、このガマとは全然違うわよね!? ちょっと、皐月様!?」
「動揺しすぎだろ。まったく、良いデータが取れやしない」
「通常運転すぎますね。仕方ない。なにか飲みますか? あり合わせのものは」
「あぁ、文月様。材料なら、此方に」
「えっ、いいのに。皐月様ならともかく、彼らですよ? 最悪、冷凍食品でもいいっていうのに」
「なんだ? 文月、私の厚意を無碍にするつもりか?」
「とんでもない。皐月様も、人が悪い」
「フンッ」
 あっ、少し笑ったような。それでも鼻であしらったようなのが大きいような。「なにっ!? 皐月様からの贈呈品だと!?」驚く蟇郡先輩の声が大きい。怒声が背中に刺さる。揃さんから材料を受け取り、作れるものを思い出した。あっ、これ。結構良いものだ。キュポッと蓋を開ける。グラスに注いで、一口飲んでみた。「なぁ、俺のは?」「あーっ!! 先に飲んでんじゃねぇ!」「ちょっと、普通全員にやるものでしょ!?」味見ですから。批難轟轟に訴えかける先輩を見ながら思った。


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