四天王の前で発露する(在学中)

 最近になってわかったことだが、早朝部長会議は毎朝あるらしい。毎週金曜日との言葉は、経費や活動報告書の提出だと知った。「お前、よくそれで務まったな。なんか、ヤベェ任務とかしてんだろ?」と先輩にはいわれたが「煩い」とだけ返しておいた。なんだって破壊か殲滅が最終目標だ。期間も下調べがされている分、短い。日数は最長で一ヶ月。短期記憶に保存して、終わったら終わりだ。「だから金曜日にしか姿を現さなかったってわけ」「まぁ、金曜日いるだけでも手数が増えるから有難かったんだけど」「四天王の次に偉い以上、ちゃんと規則を読め!! 規則を!」なんて双方から批判を喰らったけど、出席しているだけで偉いと思う。いや、一番偉いのは毎朝七時きっかりに席に着いている先輩方か。「でも、珍しいわね」クルッと乃音先輩の指揮棒が回る。
「猿くんが文月を連れてくるなんて。どういう風の吹き回し?」
「コイツの行き先を知っているわけじゃないだろう? なにせ、俺たちとは別の仕事を与えられているみたいだからね」
「企業秘密ですよ。まぁ、行き先を告げてないのは本当ですが」
「なっ!? おっ、ま!!」
「たまたま出会ったのか?」
「そういう感じです」
「『そういう感じです』じゃねぇだろ!?」
 先輩が顔を真っ赤にして否定するので、すかさず肘鉄を入れた。腹にである。呻く先輩の様子を見ながら、話を変える。
「そういえば、極制服の通常のデザインって、それぞれの趣味を反映しているんですか? ほら、最初に会ったときも似たような服を着てたし」
「俺はパーカーだけど。まっ、要望を伝えてそれを元にデザインを組んでもらったのはあるかな」
「悔しいけど、アイツの裁縫の腕だけはピカイチだからね。センスも認めてやってもいいかも」
「分析も研究も一番かとは思いますが。デザインセンス、私も良いと思っていました」
「トゲは良いからな。己を律してくれる」
「そういうものですか?」
「カッコイイじゃねぇか!! いっ、てて」
「学ランの改造、とかありそう」
「まっ、ありそうよね」
「北関東での流行りかい? って聞きたいけど、既に輪廻堂中学校で蟇郡の例があるからね。一部の流行なんだろう」
「かくいう犬牟田先輩にも、同じ兆候はありますが」
「あの馬鹿どもと同じにしないでくれるかい?」
 ハッキリと『馬鹿ども』っていっちゃったよ、この人。クイッと眼鏡を上げ直す犬牟田先輩に、そう思う。蟇郡先輩に至っては平然としてるし、猿投山先輩に至っては、まだ尾を引いている。「そんなに痛かったんですか」と聞いたら「やべぇところに入れたからだろうが!」と噛み付いてきた。それなら腹筋を鍛えた方がいいのに。あっ、以前よりも固かったことを伝えた方がいいのか、これ。どうしよう。とにかく、この場はいうべきではない。
「というか」
「なによ?」
「各部の報告や意見や要望を聞くだけなら、私はいらないのでは?」
「俺たちにも面子があるからね。生徒会としての威厳を保たないといけないのさ」
「なら、裏で動いてたってことで誤魔化しておこう」
「嘘ではないだろうな?」
「それで毎朝七時に間に合わないこともありましたし! これでも、金曜日に間に合うよう回した方ですよ?」
「伝えなかったのも、皐月様の御意思ってわけか」
「いや『毎朝七時に部長会議がある』『四天王はそこにいる』『毎週金曜日に経費や活動報告書を提出するから、それに目を通しておけ』ということはいわれたような気が」
「それでも、出ろってはいわれてないのね」
「あー、最後の三つ目を曲解して手伝いに来ていたのか」
「曲解っていわないでくれます?」
「文月の欠席をなにもいわなかったのも、皐月様の御意思だったと」
「まぁ、あの人のことですから。時機を見て知らせるようしたんだと思いますよ? なんだって、用意周到なお方ですから」
「違いねぇな。って、それならお前も出席して各部活の様子を見ておけよ!?」
「だっていわれなかったですし。ようやく、そこまでの気が回せる余裕が出てきたってことです」
「うん? そういえば、猿投山。以前、文月と来たときに遅刻をしかけていただろう」
「してねぇよ! 少なくとも過去の話だ。今は全ッ然、関係ないね!」
「でも、文月といないときはちゃんと時間通りに来てたじゃない?」
「文月とセットで来ていたということは、つまり」
「だぁ!! ソイツとコイツと関係ねぇっていってんだろ!?」
「先輩。反応したら、さらに思うツボですよ」
「お前のせいだろうが!!」
「八割がた先輩が反応しているせいかと」
 やっぱり、暴力で黙らせた方がいいか? 四者から突っ込まれているせいか、先輩がますます図星な反応を出す。「あーらら、山猿さん。もしかして?」「いけないなぁ、朝帰りは。校則は見たかい?」「なに!? 猿投山ッ! 貴様、本能字学園生徒会四天王であるというのに、不純異性交際をしているというのか!?」「してねぇよ!! お」なんか危ないことをいいかけたので、裏拳で黙らせた。何度も殴られるものだから、先輩の腹筋はさらに強くなりそうだ。殴られた腹を押さえて、先輩は蹲っている。急所に何度も入れたからか、口からは痛みに呻く声しか出てこない。
「ねぇ。ちょっと、千芳」
「はい。なんですか、乃音先輩」
「アンタの、そのつれない態度。どっちなのよ?」
「少なくとも、色や恋路に現を抜かす場合ではないかと」
「まっ、そうだけどさ。そういうの、他でやってくれる?」
「あら、面白い火の粉が飛びそうなので消しただけですよ? それともなにか、不服でも?」
「あるわッ!!」
「猿投山先輩には聞いてませんよ」
「おっ、まえ! あるごとあるごと俺の腹を殴りやがって!! んなに黙らせたいなら、お前が代わりに喋れよ!? いつも俺ばかりじゃねぇかッ!!」
「先輩が面白いからいけないんでしょ!?」
「あーらら、いっちゃったよ」
「文月、それはいってはいけないワードだ。気持ちはすごくわかるけど」
「どっちの味方だ!? ともかく! 金輪際俺を黙らせたいときは殴るのは無しだッ!! 口で」
 腹が駄目ならこれしかない。ピョンっと飛んで身長差を失くしながら、パシンッと先輩の頬を叩いた。平手である。グーではないから殴るうちに入らない。
 顔に攻撃が入ったからか、先輩が静かになる。黙った。俯いて、無言で叩かれた頬を押さえている。
「ちょっと、千芳」
「なんですか、乃音先輩」
「『なんですか』じゃ、ないわよ!! 流石にあれはやりすぎでしょぉ? 見てるこっちが気の毒になるわぁ」
「そうですか」
「同情するよ。猿投山。ところで、結構良いデータが取れたけど、見るかい?」
「駄目だ。放心していてマトモに話せる状況ではないな」
「仕方ないなぁ、ちょっと行きますね。連れて行くので、また後で」
 まったく、他の先輩方に心配をかけるとは。先輩も仕方ないなぁ。腕を引く。先輩が素直に従った。
「どめすてぃっくばいおれんす?」
「違うよ。調教っていってください」
「どちらにせよ、えげつないね。今の時代だと犯罪だよ。犯罪」
「肝に銘じておきます」
「猿投山! しっかりと嫌なら嫌だというんだぞ!!」
「いっ、うに決まってるだろうがッ!! 馬鹿野郎めぇ!」
 先輩が泣きながら叫んだ。完全に蟇郡先輩や乃音先輩や犬牟田先輩に当たっている。「まぁ、態度を改めれば手を出しませんから」「態度ってなんだよ!? 毎回毎回殴って黙らせやがって!!」「だって、先輩が余計なことをいうから」「だったら口を手で塞ぐなどの方法があるだろうが!」「身長差って知ってます?」「さっきの平手はなんだったんだよ!?」などなどと、話しているうちに半泣きだ。(うわっ、可愛いなぁ)ここまで調子を崩すとは、なんか、背骨の裏からゾクゾクきちゃう。
「うわぁお。千芳ってば、あぁいう趣味があったの」
「いやぁ、バトルスタイル自体が、結構、えげつないところがあるからね。まぁ、あぁいうのも。納得してしまうというか」
「自鞭自縛はいいぞ?」
「誰もアンタの趣味は聞いてないわよ! 変態老け顔ゴリラ!」
「誰が変態の老け顔だ! 誰がッ!!」
「ゴリラってところは否定しないんだね。あーあ、煩いなぁ!」
 あそこは任せて、プルプル震える先輩を眺めた。


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