途中で脱線させられる(在学中・二年)

 風紀部委員長の仕事を手伝う。「なんか、地下の施設凄くないですか?」「それはお前のところもそうだろう」「いや、私は訓練施設を並行しているからで」しかも三つ星専用体育館や二つ星や一つ星のものとは違う。無星はいわずもがな、だ。使用する設備や環境が違う以上、どうしても別物を用意する必要がある。だから、あの広さだ。それなのに風紀部委員長の管轄下にある監視モニターは、どうも『監視室』の度を超す。まるで『監視モニターエリア』だ。SF小説やアニメに出てくる宇宙戦艦みたいな高い天井に、頭からつま先までビッシリと埋まる数百ものモニター。ちょうど人が一人腰かける高さは、操作パネルが設置されている。「これ、誰が使っているんですか」「一年のトラップ開発部長だな。全生徒の監視及び行動分析、一学期に一度行われる『本能字学園ノー遅刻デー』に使用するトラップの開発を任せている」「へー」いったい、どこでスカウトしたのやら。恐らく不審な動きをしているのを見かけての声をかけたか、その辺りだろう。その観察眼や罠の開発を買われてこの座を得たのか。(まぁ、そういうのはよくあるし)皐月様も有能な者は登用するよう呼び掛けている。元より、本能字学園とはそういうところだ。実力のある者ほど、上に行く。「本日の不審者は、この辺りだな」「蟇郡先輩に不審者といわれると、なんか心外っぽそう」「どういう意味だ?」「どうとでも」軽口を叩きながら、今回のイエローラインを頭に入れた。レッドラインに至ったら、いうまでもなく。風紀部の仕事を奪わない限りで粛清するまでだ。(とはいえ)こういう反乱分子も含めて、皐月様は私兵の牙を研がせる材料にしているような気がする。本能字学園に仇なすレベルまで放置するべきか。どこまで泳がすかが難しい範囲だ。と考えたら、疑問に思ってたことを思い出した。
「そういえば、蟇郡先輩。妙に身体が大きくなることがありますよね? それ、巨大化の薬でも使っているんですか? それとも、元から極制服が伸縮したりとか?」
「なにをいっている。俺は元からこのサイズだぞ」
「いや、そうではなくて。物理的なもので。あー、もういいや」
 モニターで該当者の現在の様子も確認した。蟇郡先輩が天然でボケを繰り返す以上、詳細を聞いても無駄である。早めに話を切り上げた。「またなにかあったら、連絡よろしくお願いしまーす」「あぁ。そっちもな」風紀部に上げる報告なんて。あぁ、あの辺りか。ガリガリと首の後ろを掻いて誤魔化した。
 地下から出て、スマホに入る情報をチェックする。特に目立ったところはない。私がいなくなったときに備えた部下の育成も一通り済んだし、与えた任務の遂行に集中させたい。(どうしようかな)外の駆逐は、ある程度済ませた。皐月様が除外したもの以外は、殆ど残っていない。残ったとしても、特に脅威はない。精々、復活したとしても牙を研ぐ材料くらいだ。全ては手の上で転がされている。
(無星のスラム街を歩いて、様子を見ようかな)
 ついでに、どこで監視の目を抜くかも考えるか。地上を歩きながら、スルスルと糸を手繰り寄せる。いや、一つ星のマンションの様子でも見るか? いや、それは部下に任せている。指導とかも、部下に任せた方がいい。特に一つ星マンションエリアが襲撃されたとの報告も情報も上がっていない。ならば、対生命戦維の武器でも支給するか? 開発に時間がかかる。反制服ゲリラか反生命戦維の組織から、技術を盗むのが早いか。しかし独断で行うわけにはいかない。皐月様の意見を仰ぐ方が先か。
(なら、必要な点を纏めて資料にして報告する必要があって)
 うん、特に急ぎの予定がないならこれにしよう。と考えが纏まったところで先輩と出くわした。
「げっ!」
「あ? んな反応をするとは、えらくなったもんだなぁ? え?」
「どういう意味ですか、それは。そもそも、先輩といると時間が無限に過ぎるんですよ。だから、忙しいときは会いたくないというか」
「ほほーう? 誉め言葉として受け取ってやろう」
「どうして、そう上から目線なんですか。まったく、忙しいんでしょう? なら」
「別に、忙しくねぇよ。息抜きだ、息抜き」
 払い除けようとした手をガッシリと掴まれる。手首なものだから、振り払おうと思えば振り払えるけど、まぁ、仕方ない。渋々先輩の息抜きに付き合った。
「はぁ、それで? また手合わせに付き合ってほしいと?」
「勝負はお預けだ。無理に連戦すると、疲れちまうだろ」
 言葉が出てこない「もしかして、馬鹿にしてます?」と出る前に、声を失った。(まさか、気遣うなんて)気持ちだけは貰うべきか、払い除けるべきか。どうするかを迷う。けれど、肘の部分が疲れるのは真実だ。グッと肘を引いてみる。
「手、離してください。肘が疲れます」
「離したらどこか行くだろ。誰が離すかッ!」
「どこで意地張ってるんですか。ったく、どこにも行きませんよ」
「そういって、前はどこかに行っただろうが!!」
「あれは、急用が入ったからで」
「本当に急用だったのか?」
「ぐっ!」
 暇だったから早急に離れたとはいえない。(というか。いたらいたで、眠気が増すからいたくないだけで)それがなければ別に、という感じだ。先輩が一向に手を離す気がない。「離してください」といっても「断る」とくるだけだ。
「今日こそ、付き合ってもらうぜ」
「なににですか、なにに」
「なんにでもだ」
「どういうことですか。どういう」
「テメェ、寝てないだろ。あの犬牟田でも寝てるんだぜ?」
「それがなにか? なにより、寝てないと効率性が下がるとかでしょう?」
「んなわけあるかッ! 寝ねぇと、人間死ぬんだよ。おらっ、寝ろ!」
「だからって、なんで先輩にいわれ」
「んな眠そうな顔をされたら、いうしかねぇだろ」
 自覚してんのか? といわれたら、ぐぅの音も出ない。結局先輩に連れられて、仮眠室に入らされた。「なんで先輩のベッド」「こっちの方が熟睡できるだろ」そういわれて、背を向けるしかなかった。


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