三つ星試運転試合(在学中・二年)

 伊織糸郎の改良もあって、以前より極制服の質が良くなっている。三つ星極制服にあった問題点を改良することにより、一つ星極制服の量産化に一歩進んだ。「あとはこの辺りのラインだな」「また実験体でも連れてきます?」「脱走されたら困るしな。なるべく逃げる可能性がない方がいい」「一つ星極制服の話だよね?」脱線しかける話を犬牟田が戻す。試運転として文月が改良した三つ星極制服を一度に相手取る。対戦していない間にも、それぞれ特訓をしていたらしい。強化した極制服と以前よりキレの増した攻撃とで、文月も本気になりかける。目下実力の五分を発揮して三つ星極制服を纏った四天王に勝利をした。四人を同時に相手取り、全力で向かってきた四人をどうにか戦闘不能にする。フィールドに一人立った文月は、思わず両手を握り締めて天に突き上げた。
「勝ったッ!!」
「ざ、っけんじゃないわよぉ!! ちょっと、伊織! これ、どういうことよ!? コイツのだけ、特殊な極制服じゃないでしょうねぇ!?」
「そんなわけない。文月の極制服はかなり後に回している。本人たっての希望でな。つまり、君たちの極制服が最新のバージョンとなる」
「ってことは、文月の素の身体能力が高いってことか?」
「くっそぉ! もう一戦だ!! まだ俺は戦える!」
「縛り付けても無駄だとは。クッ、風紀部委員長蟇郡苛、一生の不覚ッ!!」
「ハッハハッ! 年季が違うんだよ!! 年季がですね!? コンビネーションとか動きとか、今回の動きを見て反省するといいです」
「なによそれぇ。ムカつくっ! ちょっと、文月。今度やるときは、わざと負けなさい? たまには年長者を立てるべきよ?」
「そんなことで勝ってどうする!? 全力をぶつけて倒さないと、真の勝利とはいえないだろう!?」
「とはいえ、四人がかりだ。正々堂々もへったくれもないだろう」
「また鍛え直すとしよう」
「ぶっちゃけ、以前のように手を抜けなかったですし、充分強くなってるとは思いますよ」
「でも、皐月様はこれ如きでは満足しない、だろ?」
「そうですね」
 猿投山の問いに文月は率直に返す。スピーカー越しに伊織に尋ねた。「今のデータを元にして、私の極制服も改良しておいてください」「あぁ、わかった」この話に犬牟田が参入する。「だったら、データに強い情報戦略部長も参加しよう」「そうしてください」この提案に文月は乗り気だ。これらの様子を見て、猿投山はムッとした。その様子に気付き、蛇崩はニマッと笑う。
「あぁら? どうしたのかしら、山猿さん。顔が怖いわよ」
「あ? 顔が怖いのは戦闘中の方じゃないのか? 蛇崩のお嬢さん」
「ふむ。いくら設備に多少犠牲が出たとはいえ、お前の攻撃の余波を俺たちは喰らったわけだからな」
「アンタらが弱っちぃからよ!! まっ、文月にはそれほどだけど、アンタたちみたいなレベルになら効くってことよね」
「はぁ? お前の煩い音など、全ッ然効いてないね」
「痩せ我慢は良くないぞ。猿投山。蛇崩の攻撃で極制服の動きが鈍ったのは事実だ」
「うるせぇ!! それでもアイツに一本でも多く入れられたのは俺の方だろうが!」
「それでも防がれたけどね。アンタが一番、千芳とやってるんでしょ? なにか弱点でもないの?」
「なっ!?」
 素に戻った蛇崩の質問で、猿投山も素に戻る。「いや、それは」と口をまごつかせ、答えに困る。質問者である蛇崩から顔を背けた。一方、蛇崩の反対側にいる蟇郡には、その顔が見える。苦い顔をする猿投山の顔が赤い。それに体調の不良を危惧した。
「うん? どうした。熱でも出たのか、猿投山」
「はぁ!? お前の目、可笑しいんじゃねぇのか!? 蟇郡ッ!」
「なんだと!? 俺の目はいつだって正常だ!!」
「あー、もう! うるさい!! ちょっと、千芳! コイツらをどうにかしなさい!?」
「いや、そういうことをいわれても。ちょっと今、改良に忙しいので」
「この辺りを改良すれば、ストレージは増えるだろうね」
「じゃ、そうしてくれ。文月、猿投山を剥がせばいいんじゃないのか? それで静かになるだろう。煩いからそうしてくれ」
「犬牟田先輩がやればいいのでは?」
「俺はデータ収集に忙しいんだ」
「かといって、自分の極制服を先に改良させてんじゃないわよ!! このデータオタクッ!」
 キィ! と蛇崩が噛み付いている間に、文月が猿投山に近付く。グッと腕を掴み、蟇郡と蛇崩の二人から距離を取らせる。「お、おい」猿投山の勢いが、青菜に塩をかけたかのようにしおらしい。借りてきた猫のようだ。「へぇ」と蛇崩の邪悪な笑みが深まる。弱味を握った蛇崩と反対に、蟇郡は首を傾げた。腕を組んだままである。単純な疑問から尋ねた。
「なんか、距離が近くないか?」
「ばっ!?」
「あぁら? 猿くん照れてるぅ」
「いわれてますよ。先輩」
「おっ、まえのせいだろうが!!」
 猿投山の悲鳴だけが響いた。顔は真っ赤であり、目尻も眉も吊り上がっている。それでも文月はどこ吹く風だ。犬牟田も伊織も同様にスルーする。「そういえば、ここの修繕費は生徒会四天王持ちでいいか? 会計担当」「えっ」突然自分たちに負債が降りかかった現場を見て、犬牟田は固まった。眼鏡が曇る。純粋に心配する蟇郡の鈍感さと嫌がらせをする蛇崩の毒舌に挟まれた猿投山は、キャンキャンと吠えた。それを文月は眺める。そんな一時休戦だった。


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