無意識の選択(さなげやま・卒暁後)

(つっかれた)
 万が一店を持つ以上、ただこんにゃくを作るだけでは持たない。経営者の父親から厳しく教えられ、優秀な兄から温かく指導を受ける。猿投山は不慣れな数字の話で頭が疲れていた。──「経営者たる者、これくらいは分かれ」──と、父親から最低限の知識を示されたことが、つい先ほどの話である。しかも文月と離れている時期だ。「彼女と離れている間に、自分を磨くのもいいかもしれないね」との旨でやんわりと勉強へ誘導されたことも、昨日の話だ。はぁ、と重く溜息を吐く。文月の意見を尊重して別居を甘んじたが、正直一時たりとも離れたくはない。一年では足りないくらいだ。コンビニで必要なものを買う。こんなときはジャンクフードなり、口になにかを入れるなりした方が楽になる。駄菓子のコーナーを見ていると、近所の子どもが猿投山に話しかけた。「あっ、こんにゃくの兄ちゃんだ!! なにか買うの?」生意気な口振りに「おう」と返しつつ「買うんだぜ」と質問に返す。これに気付いた親が慌てて駆け寄り、「すみません」と謝って子どもを引き連れて行った。手を振る生意気な子どもに応えて、猿投山も手を振る。食べたいものを買い、アイスは見送り、飲み物を買う。もう一度、菓子が並ぶコーナーに入った。デザートの並ぶ棚も見て、そこから商品を選ぶ。ペットボトルに戻り、そこから一本。次にソフトドリンクのカップが並ぶところに周り、そこからもう一つ買った。カゴが重くなる。予想以上に金額が高い。隣に文月はいないため、猿投山が自分の財布から全額を出す。
(こういうとき『だから買いすぎなんですよ』『だからいったじゃないですか』っていって、無理に出そうとするよな。アイツ)
 無性に恋しくなる。重いコンビニの袋を片手に提げ、帰路に着く。本日は休日だが、部屋に戻れば勉学が待っている。経営に関する必要最低限の知識を収めた教科書が、山のように机にあった。鎮座している。猿投山の気が重くなる。
「チッ」
(こういうのは、千芳が得意だってぇのに)
 猫の手も借りたいくらいである。机の前に座り、山の一番上から取り掛かる。出だしで躓いた。(こういうときは、甘いものがいいんだっけか?)優秀な兄も「ブドウ糖が良い」といったし、文月もまた「甘味がいい」といった。甘味を探し出す。コンビニからの補給にブドウ糖はない。いちごミルクを取り出し、付属のストローの封を開けた。ゴミをゴミ箱に捨て、出したストローを突き刺す。そのストローを歯で軽く噛みながら、ノートを取り出した。
 疑問や突っかかりを感じたところを、メモとして残しておく。
(こうしてやった方が、やりやすいって、アイツ。いっていたな)
 寝ても覚めても文月のことばかりである。歯が痛くなるほど甘い液体を吸いながら、次の糖分補給を探し出した。ここで、猿投山は自分が買い出したものに気付く。
(あー、くそっ。千芳がいねぇから、つい買っちまったじゃねぇか)
 頭を抱える。袋に入っていたものは、全て千芳が好む味ばかりであった。


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