daradara-低気圧

(あっ、これは当たりを引いたかも)
 軽やかな食感に、ナッツの重み。裏返したらひまわり油百パーセントの文字。封も切りやすいように予め切れ目が入っているし、外国ならではの工夫も感じる。原産国は、スペイン。輸入者は日本。もっと大袋で入ってくれればいいのに。小袋に不平を漏らしながら、もう一枚食べる。バリバリという音の横で、モフモフという音が聞こえる。渦はこういうのに興味がないのか、駄菓子を食べていた。海外の輸入品じゃない。国内で生産された、安価なお菓子だ。数十円で買える分、量も少ない。キャベツを冠した蛙が、段々萎んでいた。
「足りるの?」
 純粋な疑問を聞くと、渦が無言で指差す。その先にあったのは、山積みのお菓子だ。同じく駄菓子の仲間たちである。同じ予算内で買っても、このように違うんだな。マルチビタミンのサポート飲料を飲む。予算外で買った野菜ジュースより、なんか薄い。渦がジッと見てきて、手を差し出してくる。飲んでいたものを渡したら、渦も飲み始めた。
「なんか」
 一口飲んで、感想をいってくる。
「果汁入ってないヤツに似てるな」
「残念。実は二十パーセントくらいは入ってるんだよな、これが」
「嘘だろ」
 げんなりとした渦の手からジュースを取り返し、数値を見る。正確には二一パーセントだ。でも、二〇パーセントの方が語呂もいいしわかりやすい。もう一口飲む。渦のいう通り、味付けした水といっても過言じゃなかった。
 ポテトチップスが空になる。ポテトチップスは二袋で、駄菓子は細々として残っている。ポリポリと、いつもより食べるスピードも遅い。駄菓子の山は減らなさそうだ。口寂しさを紛らわせるために、薄いジュースを飲む。野菜やビタミンの足りなさで、お菓子大会を提案するんじゃなかった。五〇〇円玉の予算でたくさん買えたのは、明らかに渦。私の手持ちはもうなくなっちゃった。リビングから立ち上がり、キッチンで飲み物を入れる。冷蔵庫から買ったばかりの野菜と果実のジュースを出し、コップに注いだ。野菜と果実、それぞれ五〇パーセントずつ入っているから、とても味が濃い。さっきのジュースと比べ物にならない。
 リビングに戻って、ボーッとする。渦はというと、まだ食べていた。今度は薄くて脂っこいものを食べている。
「今日のご飯、どうしよう」
 正直、お金で手間も時間も買える時代だ。割高と思えるほど、作るのに手間がかからない。冷凍の食品や食材、レトルトのパウチなど様々だ。材料から買えば、余った分は他の料理に使える。それでも手間がかかる。
(作ってくれっていわれたらどうしよう)
 ぶっちゃけ、やる気が出てこない。無言で食べていた渦が、声を出した。
「あー」
 口の端に、食べかすが付いている。さっき食べた、薄くて脂っこいもののせいだろう。なんだか声も気だるげだ。
「適当でいいぜ。食えりゃあ、なんでも」
「本当に? あとで文句をいったりしない?」
「しねぇよ。なんだったら、手伝うか?」
「冷蔵庫にあるもので、残り物調理をしよう? 冷凍食品とか、フルに使って」
「適当に茹でちまうか?」
「冷凍の食材なら、レンジでチンするだけで済ませるかも」
「簡単なサラダも作っちまうか。肉はあったっけ?」
「ない、かなぁ。あったとしても解凍が面倒臭いし」
「じゃ、肉は俺が担当するか。焼いちまってもいいだろ?」
「フライパンで?」
「おう。嫌か?」
「茹でた方がいいなぁ、って。あっ、じゃぁシチューだ。そっちの方が食べやすいかも」
「洗い物も減るってか」
「そうそう。鍋物一点あるだけで、ちょっと豪勢な感じにもなるし。シチューの方が美味しいし」
「そっちが本音だろ」
「そう。炒めて牛乳入れて、ルーも入れて煮込むだけ。簡単でしょ?」
「簡単だなぁ」
「今日はシチューにしよう」
「だな」
 簡単に決まった。とりあえず、ご飯までもうすぐだし、そろそろ準備する準備でもしようか。野菜と果実のジュースを、もう一口飲む。
(あっ)
 一切出てこなかったいつもの単語に気付いた。
「ねぇ」
「あ?」
 話しかけると、ぶっきらぼうに返事をしてくる。もそもそと食べてるし、本当はそこまで食べたくないんだろ、そうなんだろ。渦の手から食べ差しを奪う。ジトっと渦が睨んできた。
「こんにゃくは、いいの?」
 いつもだったら、二の句を継がずに『こんにゃく』の一つが出てくる。食事や食べ物の話になると、いつもこうだ。それが、今回は出ない。怠そうに私を見つめて、渦が手を伸ばしてきた。
「だりぃだろ。下拵えとか色々。こんにゃくをメインに据えちまうと、手間ぁかかるからな」
(へぇ)
 感心してしまう。どうやら、渦なりの気遣いらしい。殊勝なことだ。そして私の唇とか頬とかを触ってくる。なんだか手付きが、ちょっといやらしい。
「これは?」
 渦の手を掴んで尋ねる。渦はさっきと変わらず、怠そうだ。
「いや、よ」
 重たく口を開く。
「やる気出ねぇから、一発エール入れてくれねぇか?」
「つまり?」
「ヤらせてくれねぇか?」
「自分で抜けばいいのに」
「抜いても駄目だったんだよなぁ」
 まさかの実行済みである。いつの間に。抜いたあとでシャワーを浴びたのかな。すると、シたのは朝方、私の起きてない頃。起きた時間帯に渦がシャワーを浴びた覚えがない。
 スルスルと撫でる。渦の頼みに、どうしようかと迷った。


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