ブルボンのブラウニー

(あっ。これは、中々に美味い)
 トップにかけたチョコレートはブラウニーの味を崩さず、ブラウニーは菓子職人の作るそれと引けを取らない。ブラウニーのボトムとトップにかけたチョコレートとで、異なるチョコレートの食感を味わうこともできる。間のスポンジはいうまでもなく、ブラウニー。洋菓子店で出しても可笑しくない、このコラボレーション。(これを、製造流通に乗せるとは)九個しか入っていないというのも、納得である。恐るべし、ブルボン。
「最近、そればっか食ってんな」
 貴重なものを丁寧に味わおうとしたら、ズシリと肩に重みがきた。渦である。香る匂いはいつもと違う。私のと一緒だ。ジッと、私の手にあるものを見ている。
「美味しいから」
「太っちまうぞ」
「ちゃんと量減らしてるからセーフ」
「ふーん」
 ジト目だ。この間に残る一口を食べて、ブラウニーを味わう。口の中でバリバリとチョコレートが崩れ、ボトムのチョコレートがほんのりと口の中に広がる。うん、企業努力が凄まじい。もう一つ、封を開ける。
「そんなに美味ぇかよ」
「うん、企業努力が凄まじい」
「こんにゃくも」
 ポツリと渦がいう。
「美味くて大容量を安い値段で買えて、すげぇだろ。企業努力とかな」
「拗ねてるの?」
「拗ねてねぇよ」
 一口で贅沢に食べると美味しいのに、との言葉を奥に仕舞いこむ。本人は「拗ねてない」といっているようだが、顔がそういっていない。私から視線を逸らしているし、唇も尖らせている。(睫毛、そんなに長くないな)目を伏せた美少年や美青年にありがちの、睫毛の長さ。それが渦にない。それと比べたら短いといえるほどだ。(イケメンだからかなぁ)どちらかというと、好漢で快男児で好男子。美男や色男というよりは、人としての好ましさがあるような気がする。ジッと見ていたからか、渦が目を上げる。さっきの拗ねた様子はどこへ行ったのか、キョトンとしていた。
「あん? どうした」
「いや」
 ここで下手に誤魔化したら、余計ややこしくなりそう。下手にいわない方がいいか。
「マジマジと、渦の顔を見てただけ」
「ほう」
 一瞬で機嫌が直った。単純だなぁ。口の中に残るブラウニーの味を味わう。後味も良い。菓子職人の考える味のデザインにも匹敵する。やはり企業努力が凄い。(残りは三つ)約六個の残りは、後日丁寧に味わって食べるとしよう。お茶も淹れた方がいいかな。
「なぁ」
 渦が重く寄り掛かってくる。ギュッと、腕ごと抱き抱えてきた。
「今日も、入らねぇか?」
「なにを?」
「風呂」
「あれも入れていいのなら」
 入浴剤のことを持ち出したら「ちぇっ」と渦が拗ねた。どうやら嫌らしい。疲労腰痛肩凝りにも効くのに。同じお風呂に入ったのだから、当然のように渦の身体からも香る。ふとしたときに香る。「とても効くのに?」と尋ねたら「入れなくてもいいだろ」と拗ねて返された。
(お風呂を張る光熱費と水道料金、それと比べたらなぁ)
 入浴剤を入れる贅沢をしても、罰が当たらないというのに。「冬だからね」と渦を説得させる。
「気分が落ち込むので、入浴剤で気分を良くしたいの」
「俺のキスやハグじゃ駄目なのかよ」
「渦の口からそんな言葉が出るとは、思いも寄らなかった」
 やっぱりブラウニーが食べたい。もう一つ食べようかと迷った。


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