執務室での電話(在学中)

(本当、急なんだよなぁ)
 運動部統括委員長だけの部屋だから、いいものの。誰かが来るようであれば、即座に断っている。ちゅっ、ちゅっ、とリップ音が響く。先輩は革張りの椅子に座っていて、私はその膝の上に立っている。膝立ちというヤツだ。後頭部を支えられているから負担は少ない。リップの負担は、うん。吸われるだけクラクラするけど、特に異常は、あった。キスを受けるたび、下半身の奥が熱くなってきた。どうしよう。腰も撫でられているし、そういうお誘いでいいのかな。ちゅっと、自分からキスをしてみる。そのまま待つと、先輩が目を開く。熱っぽい。そういうお誘いは成立した、と見ても良さそうだ。先輩の手が、頬から首を撫でる。とりあえず、ここでするのかな。誰も来ないから、別にいいけど。できたらベッドがいいな。先輩の肩を擦る。先輩がまたキスをして、今度は頬に移す。本当、キスが好きだなぁ。手探りで、ベルトの金具を探す。お互いに服を脱がそうとしたら、突然電話が鳴った。
 あまりにも突然のことで、ビクッてしてしまう。慌てて発信源を探す。私のところじゃない。じゃぁ、先輩? 先輩の方を見ると、当たっていた。携帯と私を交互に見る。なに、そのポカンとした顔。こっちも呆れていると、先輩が電話に出た。
 ピッと通話音が、外からでも聞こえる。
「おう。なんだ」
 もしもし、じゃないんだ。電話に出ながら、先輩が触ってくる。ちょっと、こしょばい。服に手を入れてくるものだから、変に感じる。
「あー、おう」
 触るだけかい。電話の話に集中しているからか、こっちはおざなりだ。シリコン素材のリラックスボールじゃないんだけど。思わず顔に出てしまう。ムッとしていると、先輩がこっちを見た。目を点にして、申し訳なさそうに眉を下げている。
「それならよかったぜ」
 口頭では相手の話に同調しているのに、顔ではこちらに謝っている。『すまない』と。顔にそう出ていた。「無事なようで、なによりだぜ」と続けていう。「あと」と続けた。
「今取り込み中でな。わりぃが、切らせてもらうぜ」
『取り込み中』と。思わずムッとしてしまう。また顔に出てしまったけど、先輩はこちらを気にする様子はない。電話越しの相手へ「おう」と応え「いいぜ」と返す。いったい、なんの話をしているんだろうか。「切るぜ」と伝えてから電話を切った。
 通話が終わる。携帯がデスクの上に置かれた。
「誰から、で」
「舎弟だ。身内の手術費が足りねぇらしくってよ、その分を送ったら感謝されたって話だ」
「へぇ」
「別に、手違いで多く送っただけなのによ。感謝されてもどうしようもねぇ話だぜ」
(入院費の話かな)
 手術後即退院という話は聞かない。二、三日くらい平静にさせて様子を見る必要がある。ちゅ、ちゅっと先輩が耳の近くや首にキスを落とす。両手が服に入ってきた。裾からスッと、腰に向かって撫でてくる。ついでにスカートのホックも外してきた。「ふぅん」とだけ返す。先輩が、はぁと耳元で熱っぽい息を吐いた。
「マメな男だぜ。ったく」
「他の人の話をすると」
「あ?」
「こういうときに」
 そうツッコんだら、今度は先輩がムッとした。私と違って、抑制していない。そのまま思ったことが顔に出て、それから口を開く。
「男相手に妬いてんのか?」
「そういうわけじゃぁ」
 ない、と先輩の肩を押す。顔を近付けながら聞くことじゃない。男と女の力の差が悔しい。ビクリと動かない。(極制服の力を利用したら、こうじゃないんだろうなぁ)と思いつつ、面倒臭いから行使しない。グッと、さらに先輩が近付く。耳のすぐ横に、口を寄せてきた。
「図星だな」
 当てずっぽうである。キッと睨めば、先輩が口笛を吹く。どこ吹く風だ。ぴゅー、と軽やかな笛が耳元で聞こえた。
「睨むなよ。おっかねぇ」
「なら、その読めなさを直すことですね。オススメですよ」
「なにをだよ。相手の動きなら、まぁ読めるようになったぜ」
 もう少しだけどよ、とまた先輩が付け加えた。


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