喧嘩の仲直り(在学中)

 ふとしたことで、喧嘩になった。切欠はわからない。取るに足りないことだろう。どこで怒ったのかもわからない。謝罪するにも、どこを直すか説明もできない状況だ。だから、時間が解決するまで待つ。もしかしたら、どこかで思いつくかもしれないだろうし、解決しなかったらしないで、仕方ないか。そう諦めを一つ付けて、極力先輩と話さないようにする。もしかしたら、話しかけられるのも嫌なのかもしれない。こちらから声をかけるのもやめる。言伝を頼まれても、少し用事が悪いので自分で伝えるように、と断っておいた。声をかけられても、最低限の応答で済ませる。下手に会話を長引かせると、また怒らせてしまうかもしれない。こうして、互いに自分のことに集中できる時間を設ける。このまま仲直りできなくても、業務に支障はないか。順調ともいえる。
 これに気付いて一日も経たないうちに、先輩の方から謝ってきた。
「その、すまん!」
 ビシッと背筋を伸ばしてからの謝罪である。幸い、人はいない。わざわざ、こっちのホームまできて謝らなくても。準備をする手を止めて、先輩にいう。
「いや、その。そこまで謝ることです?」
「八割、いや五割六割はテメェの方が悪いが」
 かなり譲渡したな、今。つまり、その二割は自分が悪かった、と。間違いがあったということなんだろうか? 謝罪を受けても、私の間違えたところがわからない。
「はぁ」
「けど、これ以上膠着しても、どうしようもねぇだろ? ここらで手打ちにしようぜ」
「といっても、どこが悪かったのかすらわからないんですけど」
 ピシッと、先輩にヒビが入ったような気がした。「はぁ、やれやれ」と譲渡してやった風な態度のまま、固まっている。あー、もしかしてまた誤解? 先輩の目が開く前に、訂正を入れておいた。
「私の、悪かったところですが」
「あっ、そっちね。そっちか」
「直さないと、また同じことを繰り返しそうですが」
 グッと先輩に近付いてみる。「そこのところ、どうなんですか?」と聞き返してみても、なにも返ってこなかった。二回同じことを繰り返した体勢のまま、止まってる。止まった指が、また頬を掻き始めた。グッと眉間に皺を寄せて、眉を吊り上げる。口はへの字になった。(また怒るのかなぁ)と思いつつ、今後の対応について考える。いくつかパターンを考え付くよりも先に、先輩が口を開いた。謝ってばかりだな、この人。
「そ、んときは、一緒に考えようぜ」
「はぁ」
 謝らないときた。謝罪ではなかったらしい。なら、その苦虫を噛み潰したような顔はなんと、ギギギと動く肩や首の動きはなんだと。そう聞きたい。尋ねたい。けれど、余計に話をややこしくするだろうか?
(するだろうなぁ)
 絶対、必ずそうなる。なんだかわからないけど、根拠のない自信があった。
「そうですか」
「おう。まぁ、今回のことは、水に流そうぜ」
「だから、悪かったところがないとわからないと」
「水に、流そうぜ? なぁ?」
 グッと、今度は先輩の方から近付いてきた。威圧がすごい。今度は脅す気なのか、そうなのか。こちらも負けじと、睨み返してみる。背伸びをしたからか、ガツンと先輩の額と激突した。痛い。私に悪くいわないでほしい。そもそも、先輩の方から身体を屈めた方が悪いんだ! キッと睨み返す。
「同じことを、また繰り返せと?」
「過ぎたことをウダウダ蒸し返しても、どうしようもねぇだろうが!! と、とりあえず。今回のことはチャラだ! チャラ!!」
「本当に? 人の与り知らぬところで、ウダウダというつもりではなくて?」
「んなわけねぇだろ!! 信用ねぇな!」
 あ、今度は涙目になった。怒鳴ったかと思いきや、目に涙を溜めている。どうやら心底傷付いたのらしい。傷心中というヤツだ。(流石に、悪く感じる)謝ろうとしたところで、口を押さえる。そこで謝罪を口にしたら、余計に話が拗れると。一拍置いてから、先輩に答えた。
「そう、ですか。じゃぁ、信じます」
「はっ? 本当か?」
「本当ですとも。いった人がそういいます?」
「いや、けどよ。その」
 なんか言いよどんでいる。なにをいいたいんだろう? 先輩の手がポケットに突っ込んだかと思いきや、片手でガリガリと後頭部を掻いている。どこか、居心地が悪いんだろうか? 明後日の方向を見ながら、なにやら考えているようでもある。
「まっ、いいけどよ」
「なにがですか」
 そう追及すると、チラッとだけ先輩の視線が私に向いた。


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