冬至の夕食(卒暁後)

 しまった。今日は冬至だった。スーパーのPOPを見て気付く。どうしよう。全然準備していない。(うどんの方が手間かからないし、それにしよう)と思ってうどんを入れようとしたら、渦に止められた。ガッシリ、手首も掴まれている。
「今日、冬至らしいな」
「そうだね」
 視線はしっかりと、私が見つけたPOPに降り注がれている。『冬至に最適!』と愉快なデザインだ。ついでにその理由についての説明が、長方形のカードに小さく書かれている。
「『ん』の付くもので縁起を担ぐと聞くじゃねぇか」
「そうだね」
「つまり、『こんにゃく』でいいんじゃねぇか?」
「渦。『ん』が二回付く食べ物だって書いてあるよ」
 そう丁寧に説明をしたら、渦が黙った。黙ってスマホを出す。それでなにか調べものをすると、その画面を私に見せてきた。白と黒で構成したシンプルながら整ったデザインだ。読みやすい大きさで、ちゃんと『こんにゃく』と材料を挙げていた。
「あら、本当」
「だろ? だからいけるって」
「他にもカボチャや小豆、蓮根や人参でもいけるね」
 これらはうどんの具材にすれば、よさそうだ。天ぷらのコーナーに行けば、置いていそうだし。作るのも簡単そうだ。「だからこんにゃく」と渦が念を押すので「はいはい」と返しておく。渦は私に見せた画面を、自分でスクロールしながら見ていた。
「豚バラと炒めるのも、いいらしいぜ」
「なら、自分で作ってね」
「おう。いいぜ」
 いいんだ。「そんなにいうなら」という前に渦が了承した。「豚バラあったっけ?」と聞いてくるものだから、冷凍を思い出す。確か、ない。あったとしても解凍に時間がかかりそうだ。「ない」とだけ返しておく。「そっか」と頷いて、渦が離れた。反対側に行く。恐らく鮮肉コーナーに行くんだろう。ガラガラとカートを引いて、お惣菜のコーナーに行く。あっ、ウィンナーが安い。どうしようかな。ここのウィンナー、高いけど値段相応裏切らない美味しさがあるんだよな。茹でるとさらに美味しい。レンジでチンするだけでも済む。お手頃だ。買おうかどうか迷っていると、渦が戻ってくる。手に豚バラの肉。量も値段もちょうどいい。しかも時間帯と相まって、さらに安くなっている。
「勝手に行くなよ」
「ごめん。刻みネギはいらない感じ?」
「いらねぇな。ベースの調味料だけで充分だ」
「そっか。天ぷらうどんの具材は、他になにがいい?」
「あー、それだけで充分だぜ。こんにゃくも乗せりゃぁ完璧だ」
「こんにゃくは、うん。うどんのと一緒に紛れ込まされてもなぁ」
「おい。なんだよ」
「うどんの小麦粉の麺と、こんにゃくの粉で作った麺。うどんの小麦粉とこんにゃくの粉を練り合わせて作ったうどんの麺。どっちに期待しても、小麦粉のとコシの時点で引けを取らない」
「ぐぅう。そ、そこは要研究という感じだろうが」
「そうだね」
 長い言葉を連ねて説明をしたせいか、渦が負けた。言い負かされた。グッと唇を噛み締めて降参の旗を出した渦を見る。少し涙を溜めて「なんだよ」と言い返してきた。
「いや、別に。今晩は、これでいい?」
「おう! 異論はないぜ」
「ちゃんとこんにゃくのは作ってね」
「わーってるって。男に二言はねぇよ」
 それを出されると、信じるしかない。ほぼ担保みたいなものだから。「言い出しっぺなんだから」という前に、渦から同意を得られる。私も先手を取られるようになったなぁ。と思いながら、お惣菜コーナーを後にした。


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