はぐらかす(在学中)

「はぁ? そうだったっけ?」なんて妙に声色を変えて話を逸らすものだから、「気障か」と呟いてしまった。先輩がグルンと振り向く。顔にも機嫌の悪さが出ていた。
「あん? 今、なんつった?」
「気障か、と。しかも話を逸らしてますし。ちゃんと本題を耳に入れてください」
「はぁ? 知らないねぇ」
「耳かきもしないで」
 しかも小指で耳の溝を掃除するような仕草付きである。おちょくってんのか。おっと、口調が移ってしまった。思わず口を隠す。ゴホン、とだけ咳をしておいた。
「ちょっと態度が痛すぎるというか行きすぎるというか。少しはその傲慢なところ、直してください」
「今『痛すぎる』といっただろ。おい」
「人の話をちゃんと聞くところとか」
 その辺りは直しても、損はないはずだ。グッと先輩に近付く。顔を覗き込むと、「ムッ」といわんばかりに先輩の口が曲がった。なんか、への字になってる。あ、顔を反らした。
「ケッ、知らねぇなぁ」
「それではぐらかせると思ってるんです? 第一、今回のことだって」
「あー! うるせぇ、うるせぇ!!」
「は!? 急に叫ばないでください! そんなうるさいといわれても、ちゃんと聞かない先輩が」
「じゃっかましい!」
 ブンッと反対側に顔を反らした。勢いがついたから、残像ができた。形相は、先と変わらずツンツンしてるけど。眉は逆八の字みたいに吊り上がり、口もへの字に曲がってる。少し目を開けたかと思いきや、ジト目になった。「ちぇっ」と唇も尖らしている。
「見りゃわかるもんだろ」
「事前の説明とか、わかります?」
「言葉の意味くらい、わからぁ!」
 ムッ。先手を打たれた。しかし裏を返せば、その必要性についてはあまり考えてないと。軽んじていると。(大丈夫かな)少し不安に感じた。
「なんのための説明だと、思ってるんです?」
「ぐっ」
「先に情報を仕入れることで、手間も省けるということも」
 あるというのに、と伝える前に「チッ」と舌打ちが入る。いわれるまでもなく、先輩だ。首と耳まで顔を赤くしている。そんなに黙って話を聞くのが嫌なのか。
「聞いてます?」
「きっ、聞いてらぁ!」
(本当かなぁ)
 何度目になるんだろう。何回か繰り返しているような気がする。そう思いながら、もう一度頭から説明を始めた。


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