キスしてほしい

「なぁ、たまにはお前の方からキス、しねぇか?」
 何度目になるかもわからないやり取りだ。大抵、先輩から甘えたいときに出てくる。そうはいっても、今はそういう気分じゃない。「そうはいっても」といえば、ムッと先輩が拗ねる。そんな可愛らしく唇を尖らせても、無駄なんだけど。そう思いながら、作業を続ける。無視してたら、先輩が肩に顎を乗せる。乗りかかりながら「なぁ、千芳」と間延びした声で呼んでくる。これで「はいはい」と答えた日には、先輩のペースに乗せられてしまう。プイッと顔を逸らす。無視をし続けたら、先輩がさらに寄り掛かってきた。「なぁ、千芳」「おい。千芳」「なぁ」といいながら、圧し掛かってくる。うっ、重い。ググッと体重をかけてくるものだから、支えきれない。
「潰れる」
「潰すつもりで、かけてんだぜ?」
「そんなにしてほしいんですか」
「ったりめぇだろ」
 欲望に素直である。(といっても、本当にそうじゃないんだよなぁ)やる気が出ない。チラッと先輩の方を見る。私の肩に顎を乗せた状態で、チラッと盗み見してきた。この、怠そうな顔をして。このっ。思わずムッとしてしまった。先輩がキョトンとする。
「んだよ。どうした?」
「自分の胸に、聞いてみたらどうです?」
「お前とキスしてぇ」
 そういって、目を瞑った。ツン、と何気に上唇を突き出している。キスをする気、満タンだ。でも、私はそうじゃない。キスを待つ先輩の鼻を、軽く抓ってみる。クイッと力を入れたら「いてっ」と目をギュッと瞑った。全然さっきみたいじゃない。先輩も口をへの字に変わってた。
(かわいい)
 ちょっと邪心が出てしまう。「いてて」といいながら、鼻を擦っている。目も涙目だ。さらに悪戯心が出てしまう。ジッと先輩を見るけど、説教してくる様子はない。(これなら、ちょっと仕掛けてみてもいいかも)チュッとキスをしてみる。軽く唇を掠ってみたけど、驚かせる分には充分だ。先輩がポカンとする。そのまま見つめていたら、先輩が口を動かした。
「い、まのは、そういうつもりか?」
「いえ。ただの悪戯ですね」
 ちょっとした洒落のつもり、と付け足そうとする。でもやめる。先輩がとても拗ねたような顔をしたからだ。もう一度キスをしてみる。唇にだ。チュッとしてみても、先輩は機嫌を直さない。
「今のは、どういうつもりなんだよ?」
「さぁ。そのうち、そういう気になるかもですね」
 ただでさえ、今はそういうつもりじゃない。悪戯心が芽生えて、キスをしてみただけだ。それに、先輩から仕掛けたことだ。別に、されても不満じゃないだろう。もう一度キスをする。先輩が腰を引いた。ちょっと嫌そうな顔をしている。それを無視して、もう一度キスをした。チュッと音が出て、もう一度合わせてみる。段々と唇が湿ってきた。先輩が、緩く口を開けてくる。まるで「舌を入れてくれ」ってお願いしているみたいだけど、無視して唇を合わせた。
 ちゅ、ちゅって重ねるだけに留める。先輩は不機嫌そうにしていたけど、なにも手を出さない。黙って受け入れているだけだった。
 もう一度唇を合わせる。先輩が小さく舌を出してたけど、無視してそれごとキスをした。私も小さく口を開けていたから、先輩の舌が入ってくる。(少し、噛んでおくだけにしておこうと思ったのに)歯で軽くせき止めてみる。けれどそれを無視して、先輩がどんどんと舌を奥へと進めた。絡め取られる。先輩が圧し掛かってきたから、肩だけを押しておいた。


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