【R-15?】夜枷の相手(在学中)

「正直なところ、先輩といちゃつく暇なんて、ないんですよね」
 単純に、そっちの方が寝付きよくなるから、そうしているだけだし。そこまでいうと、先輩がひどくショックを受けた顔をした。見るからにガーンッ! と。開いた口の端は下がっているし、眉も八の字になっている。ついでに顔も青褪めていた。そんなにショックを受ける? 当たり前のことなのに。顔を顰めていると、先輩が力を強める。後ろから抱えられたものだから、首のところが軽く絞まる。
「んなこたぁ、いうなよ。傷付いちまうじゃねぇか」
「傷付く人が、こんな強くやります?」
「やるっつーの」
 グシグシと頬を押し付けてくる。普通、気持ちが弱まるなら、力の方も弱まると思うけど。脱力したみたいに。けど、先輩の力はそれと真逆だ。
「変なの。でも、いちゃつく時間がないのは事実ですから」
「つれねーヤツ」
「なんとでも。例え先輩と皐月様といわれたら、皐月様の方を取りますからね」
「どういう状況でだよ」
「崖から突き落とされて、どちらかしか助けられないとき」
 そう前提を話したら、先輩がキョトンとした。未だに、私の首に腕を回した状態だけど。おかげで、先輩の膝から降りることもできない。
「まっ、そうだろうな。俺だったらなんとかできるからな。その状況でも」
「でしょう?」
「皐月様の身の安全が第一だ」
「そうそう。皐月様のご命令でもない限り、皐月様を優先したいですね。先輩もそうでしょう?」
 と流れで尋ねたら、とても渋い顔をされた。おい、なんでだ。そこは普通、快諾するところじゃないの!? 先輩が顔を右に反らしたり、左に反らしたりする。それでも、渋面は変わらない。ギュッと目を瞑り、眉間に皺を寄せ乍ら唇を尖らせている。それからたっぷりと熟慮する。先輩がすごく考えているから、私もなにもいわない。私の体を引き寄せて、軽く髪に顔を埋める。あっ、何気に人の匂いを嗅ぐな! グッと肘で剥がそうとしたら、先輩が顔を上げた。
 すごく、苦い顔をしている。
「皐月様、だな」
「なんですか、さっきまでの間は」
「いや、よ」
 未だに苦い顔をしたまま、先輩が話す。
「正直、比べ物になんねぇだろ」
「うーん?」
「そりゃあ、お前はどうにかするだろうと思うぜ? んな状況になったら」
 唇を尖らせながら、人の顔を触ってくる。やっぱり、接触を求めてくる。けど今日はしない。明日に響くからだ。代わりに、顔を触る先輩の手を包む。
「でも心配しちまうもんは、しちまうだろ」
「信用ないですねぇ。そんなに信頼してないんですか?」
「してるけどよ。どうしてもしちまうもんは、しちまうだろ」
「ふーん?」
 よくわからない。「でも、皐月様の安全を第一にしたんですよね?」と聞き返せば「当たり前だろ」と返ってきた。
(なら、今はそれで充分)
 それ以上のものは、今はいらない。先輩の手が、私が包んでいるにも関わらず、スリスリとしてくる。あ、これはヤバいな。接触を求めてきそう。「なぁ」と先輩が口を開く。なんか、さっきと違って真剣味を帯びている。
「もし、もしもよ。皐月様にこういうことを要求されたら、お前はどうする?」
「いや、そんなわけ」
「もしもの話だぜ?」
 さらに困るようなことをいうな。視線を左右へ向けるけど、先輩が離れない。鼻が擦れて、額がコツンとなる。至近距離の中で、先輩が口を開いた。
「俺ぁ、断るぜ。夜枷の相手なんざ、滅相もねぇ」
「えっ、なんで。というか、そもそも皐月様でそんなこと考えないでください。野蛮ですね、メキョっと首を捻りますよ?」
「もしもっつーったろ!? おっかねぇなぁ、相変わらず」
「当然です」
「胸を張るところかぁ?」
「張るところです」
「あー、そうかよ」
「それだけ?」
「あ?」
「本当に、それだけ? 滅相もない、とか」
「あー、そうだよ。強いていやぁ」
 グリグリと私の頬を包んだまま、先輩が額を押し付ける。
「あの人ぁ綺麗で崇高だからよ。お前に抱くのと同じものは抱けねーんだわ」
「当たり前ですよ。万が一抱いたら、メキョっと股間を蹴り上げますからね?」
「おー、こえぇ。だから怖くて抱けねぇし、俺なんかが手を出していい方じゃねぇ」
「あぁ、でも、だとしたら私もお断りしないと」
 いけない感じだろうか? という前に先輩が話を続ける。
「それに」
 視線を上げれば、先輩が呆れたような目をしていた。
「万が一受け取った暁にゃぁ、幻滅すると思うぜ。皐月様だったらよ。女のオメーはともかく」
「男だと、ダメ?」
「おう。ったりめぇよ。一晩中説教コースの上に、四天王っつー身分も剥奪されるわ、信頼も失われるわ」
「そんなに」
「まっ、一番キツイのは信頼を失われる方だけどよ。腹を切っても詫びをしきれねぇ」
「うっ、気持ち的にはわかるかも。そんなに、男女の差はあるんだ」
「他にも、あるけどよ」
 と目を瞑る。先輩の眉間の皺も心なしか緩んで、スリスリと鼻の頭を擦りつけてくる。ついでにグッと腰を突き上げて、なんかの主張もしてきた。
「こういう理由だから、っつーので理解はしてくれると思うぜ?」
「どういう理由で?」
「浮気は絶対ぇ許さねぇし、したら腹を切って詫びろっつーヤツだ」
「あぁ、わかるかも。寧ろ皐月様にそういうのしようとするものなら、私が」
「そーいうのじゃねぇんだよ」
 ったく、クソッ。とかいって、先輩が体を預けてくる。重い。男の人の体を支えきれなくて、思わずベッドに手を突く。そうすると、先輩が押し倒してきた。
「とにかく。ダメなモンはダメだっつー話だ」
「そんなに?」
「皐月様だけじゃなく、俺の貞操概念まで疑うつもりか? え?」
「いや、皐月様のを疑うつもりはないけど」
 そもそも、どうしてこんな話になったんだっけ? というよりも早く口が閉じる。舌が入り込んで、口内を蹂躙してから舌をじゅるじゅると啜り上げる。あっ、やばい。唾が垂れそう。喉を動かす前に、先輩が離れた。
 ペロリと私を見下ろしながら、舌なめずりをしてくる。なにか、言葉を発するのを待ってそうな顔だな。いったい、なにを待っているんだろう。あぁ、さっきまで皐月様の話をしてたっけ? それについてのことだろうか。
 少し考える。前後のやり取りから考えて、思ったことを呟いた。
「都合のいい存在?」
「んなわけねぇだろ。馬鹿か」
 そう吐き捨てて、ぐりっと押し付けてきた。それに体がビクッとなる。思わず先輩の腕を掴んだら、ニヤリと、先輩の目尻が垂れたような気がした。
「お前と皐月様は違うんだよ」
「そんなわかりきったこといわれても、いっ。じゃぁ、今吸い付いたのって?」
「あ?」
 チュッと先輩が首から離れる。ジッと私を見つめる。そこから口を開いた。
「自分で考えてみろ」
 服に手をかけた。


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