パワーパッド(在学中)

 処理に少し、手間取ってしまった。暴走する生命戦維相手のデータも少なくて、スムーズに黙らせることも難しい。(なるべく、損傷は抑えたけど)ほんの一割に満たない少しだけが、劣化してしまっただけだ。なんか、こういう『新鮮なうちに生け捕りをして、質を高めよう!』なんていうゲーム、あったな。今度ゲーム部みたいなのを探し出して、ちょっとソフトのことを聞いてみよう。チラッと腕にできた傷を見る。止血はしたけど、結構生々しい。伊織先輩は「すぐに手当てをした方がいい」といって服を渡すよう言外にいってきたが、これはこれでいいデータを取れるんじゃないのか?
 犬牟田先輩と相談して、ほんの少しだけ損傷したままで過ごす。この状態で戦闘をしたらどうなるのか? 猿投山先輩も、組手をする相手を探していたようだし、ちょうどいい。
 校舎の中を歩く。もう日が暮れているから、人が少ない。この時間まで残っているとすれば、部活動くらいだろう。一般生徒は全員帰った。無星に至っては、部活以外の居残りは許されない。補習ならば、これよりも前の時間に終わらせている。それに部活動でいたとしても、二つ星クラスの許可がない限り、他への移動は許されない。
(結局、誰もいないっていうことに変わりはないけど)
 もう少し歩く。生徒会四天王各個人部屋は遠い。というか同じ場所にないといっても、過言ではない。
(先輩、まだ帰ってきていないな)
 どうせ、どこかへ出かけているんだろう。そう思ってボーッと扉を見ていたら、右側から先輩が戻ってきた。目をショボショボしている。どうやらお疲れのようだ。また今度にしよう。(服の機能性だけでも、充分に取れると思うし)後日の予定に回したら「おい」と声をかけられた。
 足を止める。後ろの足音が聞こえないのを確認して、少し振り返る。先輩がポケットに手を突っ込んだまま、こっちを見下ろすように睨んでいた。
「なにか用があるんじゃねぇのか。俺に」
「いや、別に。またの機会にでもいいかな、って」
「だったら先に済ましちまう方が楽だろ」
 といいながら、カツカツと近付いてくる。大股だ。なにをそんなに、急いでるのだろうか。(別に明日でもいいのに)遠ざかろうとしたら、ガシリと腕を掴んでくる。あ、しまった。怪我した方を見られ、今まで以上に顔を顰められる。
「どうしたんだ、これ」
「別に、なんでもないですよ。生命戦維が暴走しただけで」
「はっ!?」
「知ってるでしょう? 実験で、ちょっと失敗しただけですよ」
「だからって、なんでテメェが」
「『適材適所』の言葉、ご存知なくて?」
 この様子だと、勝負を持ち帰るのは、やめた方がよさそうだ。背を向けようとするが、先輩が離してくれない。腕を引く。それ以上に先輩が腕を引っ張った。
「来い」
「いや、放っておけば治りますから」
「痕が残っちまうだろ」
(まだ、そこまでのことはしてないのに)
 あぁいえばこういうで、多分ダメだろう。「わかりました」と素直に引き下がる。譲渡を見せた途端、部屋に引き摺り込まれた。
(意外と、応急処置する道具は揃ってるんだ)
 ベッドに座らされ、上着を脱がされて袖を捲られる。見た目は酷いけど、傷は浅い。消毒液で拭えば、治りかけた傷が見えた。皮膚がプツプツと、裂けた皮膚を引き寄せては傷口を隠している。
「水で洗い流すだけでも、充分じゃないですか」
「念には念を、だろ。ばい菌が入っちまうぞ」
「それも兼ねてるんですが」
「そこまでやる必要はねぇだろ。他の連中にやらせておけ」
「他のだと、いいデータが取れないんですよ。被験者の立場からも」
「勝手な思い上がりだろ。それ。別に他のヤツでもできることだろうよ」
(そうかなぁ)
 私の方の、利便性も兼ねてはいるんだけど。小さな救急箱の蓋にケースが置かれて、その底から何種類かの絆創膏が現れる。どれも箱だ。枚数は大きさによってマチマチ。見れば、湿布も入っていた。
「自分用?」
「一々保健室立ち寄るのも、面倒臭いだろ。三つ星専用があるとはいえ」
「確かに」
 距離も遠いし、あれなら拝借した方が早いというもの。(人のこといえないけど)でも、こっちはわざわざ受注しているし。向こうとは別にしているし。と思ってたら、透明なのをペタリと貼られる。キズパワーパッドに近いヤツだ。関節の近くにできた傷じゃないから、剥がれる心配はない。
「すぐに治るというのに」
「ばぁか。痕が残ったらどうするんだ」
「残りませんよ。自分のことは、自分がよくわかってるので」
「俺が心配なんだよ」
 急に拗ねるな。チラリと先輩の顔を見れば、唇を尖らせている。「ほらよ」といって、腕を解放してくる。袖も下ろして、可動性の方も確かめる。うん、問題はなさそうだ。
「で? 極制服の方はいつ直すんだ? 伊織ならパパッと直しちまうだろ」
「機能性をチェックしてからですね」
 損傷した状況での実行も見た方がいいし、一石二鳥だ。そう口に出したら、先輩がとてもひどく嫌そうな顔をした。
「一石二鳥だと、思いません?」
「思わねぇよ」
 馬鹿が、とも吐き捨ててきた。


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