(在学中)

 チュッと音がする。急に人気のないところに引き摺り込まれて、肩を掴まれたと思ったらこれだ。ギュッと目を瞑って、キスをしてくる。そんなにしたいのだろうか? 私が抵抗しないのをいいことに、段々とキスをする感覚が狭まってきた。目尻に寄った皺も消えて、唇の力も弱まる。チュッチュッと小さく唇を吸いながら、ただ唇を合わせる。これで、満足すればいいんだけど。下手したらベルトの棘が刺さりそうだし。(身長差がある分、屈んで隙間ができり分で、避けてはいるけど)そう長く考えていたら、次の段階へ進もうとしていた。
 チュパッと唇が離れて、舌を入れてこようとする。唇の裏側に、先輩の舌を感じた。あ、これはヤバい。思わず先輩の脛を蹴った。力強く蹴ったせいか、先輩が一気に離れる。
「いっで!?」
 ツッと、唇に繋がってた唾も途切れた。なんというか、粘着質。自分の顎に落ちたヤツを触っても、ベタベタとする。指の間で軽く糸を引いていた。先輩はというと、すごく不機嫌そうな顔で睨んでくる。
「なんだよ」
「そういうことしてる時間、ないでしょ」
 そう事実を告げたら「チェッ」と舌打ちをしてきた。ペロリと舌なめずりをして、自分の顎に垂れた唾を拭う。
「テメェも良かったんだろ? え? だから大人しくキスされてたんだろ?」
「いい加減にしてくれませんか? さっさと終わらせた方が、終わると思ったからです」
「あんだと?」
「第一、まだ先輩の方が遅れて、んっ」
 人の話しているときに、キスをするな。また肩を掴んでるし。今度は軽く目を瞑ってる。薄く開くと、また尋ねてきた。
「なぁ、いいか? シてもいいだろ?」
「ダメです」
 強請る先輩に容赦なく否定を入れた。キスだけで我慢をしてほしい。また「チェッ」と舌打ちするけど、さっきと違う。眉も顰めて唇を拗ねたように尖らせていた。
「じゃぁ、よ。キスだけならいいだろ? なぁ」
「それ、もうしようとしてる時点でいいます?」
「いうね。寸止めはセーフだろ?」
「どうだか」
 それで我慢ができなくなる人の癖に。もう目と鼻の先になったから「舌は入れないでくださいよ」とだけ伝える。それにまた「チェッ」と先輩が舌打ちをした。今度は不機嫌そうに顔を顰めている。
「わぁったよ。キスだけだな?」
 そう前置きして、先輩がキスをしてくる。チュッチュッとまた音が響く。あっ、ヤバい。誰がいつ触ってもいいといった!? 慌てて手を掴む。でも私の体を撫でるのを止めない。
「あっ、やだ」
「我慢できなくなっちまったんだろ? やろうぜ」
 そう足の間に膝を割り込ませて、スリスリしてくる。身長差を考えろ、馬鹿。踵が少し浮いて、床から離れてしまう。なんだかその顔がムカついて、思わず先輩の頬を力強く抓ってやった。
「いった!?」
「発情した猿みたいに盛らないでくれますか?」
 先輩の膝が降りて、踵が床に着く。それを大きく跨いで、離れようとする。そうしたら、先輩が腕を掴んでグッと引き寄せてきた。
「んな状態でか? テメェも、人のこといえねぇ状態だろ」
「せ、先輩よりはマシですから」
「あん? 随分と弱気な声じゃねぇか。あぁ、わかったぜ? 俺がほしくて堪らねぇんだろ?」
「その口、いつになったら閉じるんですか?」
 そう「ほざくな」と婉曲的に伝える前に、先輩の喉が大きく反れる。あっ、私が先輩の顎を大きく手で退かしたからだ。「ぐぅ」と先輩が呻く。大きな手が私に纏わりつかないのを見て、離れた。廊下の方を見る。幸い、人通りはまだない。
「ちぇっ、つれねぇヤツ」
 そう先輩が拗ねてたけど、無視した。


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