ホットケーキを焼かないと出られない部屋(在学中)

 ホットケーキタワーって、意外と難しい。ほいほいと焼いても、綺麗な丸にならない。引っ繰り返すと生焼けで、グシャグシャのホットケーキができてしまう。薄く焼きすぎるとクレープ判定。ほどよく焼いても生地が残る。きっかり十五枚でタワーに積み重ねる。これが中々に難しい。
「もう食べ飽きたぞ」
 タワーに積み重ねる役の先輩がいう。ついでに崩れたホットケーキを一緒に食べてくれるのも兼用している。
「私もです、焼くのにも飽きました」
 代わってほしいくらいだ。チラリと先輩の目がこっちに向く。
「変わるか?」
「作れるのなら」
「じゃ、やらねぇ」
 なんだそれ。もしかして、ホットケーキが作れないんだろうか? 黙々と生地を作る。ホットケーキミックスの粉は、やはり天才。ペロリと生地を舐めていたら「コンニャクがあったらアガるんだけどな」とボヤいてきた。
「悪趣味」
「どこがでぇい。れっきとした研究だろ」
「どこが」
 ただのコンニャクにホットケーキなんて、味が合わないにもほどがある。お玉で二回掬って、大きなフライパンで焼く。あぁ、池ほどの大きさのあるホットケーキ、焼くって話。昔おとぎ話か絵本かであったな。と思って、フツフツと泡が出るのを待った。フライ返しを二つ使う。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よ。あと八つくらい足りねぇぞ」
「そんなに? もう二十枚は焼いたと思ったのに」
「その間にどんだけ失敗したと思ってんだ。馬鹿か?」
「むっ」
 だったら自分でしてみろという話である。グッと腕に力を入れる。ちょっとバランスを崩したおかげで、綺麗な丸にはできなかった。
「あっ」
「あーあ、またやり直しだな」
「じゃぁ、やってくださいよ。代わりに。流石に疲れてきました」
「おう」
「とりあえず、トッピングを選ぼうって。先輩? その、口元」
「あ?」
「食べたんですか」
 私も食べてないのに。トンと口元を叩けば、自分についているホットケーキの食べかすに気付いた。指に触れたのを感覚だけ見て、ペロリと食べる。そんな、証拠隠滅してももう遅い。
「おう」
 そんな開き直っても、隠し通すことはできないのに。はぁ、と溜息を吐く。わざとらしくそう見せつけてから、フライ返しを渡した。
「どうぞ」
「もっと美味いヤツを作ってやるよ」
(どの口がいうか)
 さっきまで食べてた癖に。そうジトリと睨むと、先輩が向こうを指差す。
「食べる専用のはアッチだぜ」
「知ってます」
「蜂蜜とホイップはまだあるからな」
「それはどうも!」
 余計なお世話だ! と思いつつ、席に座る。パカッと開けば、色とりどりのチップスは残ってる。それをクリームにかけるのもいいな。チョコレートソースをかけて楽しむのもいいかも。
 失敗したのが皿に移される。ホクホクだ。ナイフとフォークを使って、一口食べる。チラリと先輩が背中を向けたのを見て、ホットケーキの塔を見た。
(一枚くらい、いいよね?)
 どうせ先輩も食べてるし、お相子だ。もう一枚抜くことを考えながら、ホットケーキにたっぷりとシロップをかけた。


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