補助販機(在学中)

 頭を使うことばかりをしていると、どうしても疲れてしまう。カタカタとキーボードを叩き、休憩を入れる。個人で動いていることだから、どうしても他の手は借りたくない。ぼんやりと手を伸ばす。デスクに置いた飴がもうない。
(しまった。切らしちゃった)
 こうなったら買うしかないけど、まだやってるところってあったっけ。ぼんやりとマップを思い出す。二ツ星専用のは、ダメか。高級店しかないし、あっても高級旅亭くらいだろう。あと、ホステスホストその辺り。子どもを出汁にして親が豪遊をする仕組みだ。なので、この辺りの福利厚生も抜群というか。いや、今ほしいのは飴ちゃん。疲れて色々なところに話が飛ぶ。
(一ツ星。確かあそこになら、コンビニの一件はあるのかもしれない。いや、あるはず)
 少なくとも、一ツ星が一般的な中流家庭と同等の暮らしができるように設定したのだ。ないと可笑しい。逆に二ツ星が上流階級で、無星が貧困階級とスラム街。まぁ、夜中に出歩くと危ないのは、確実に無星である。
 当てられた部屋を出て、廊下を歩く。どうやって一ツ星のところまで降りようかな。そう考えていたら、ここにいるはずのない人物がいた。
「えっ、どうしてここに」
 先輩が。驚いて指を差してしまうことにも遅れる。気付いた頃には、先輩は不機嫌そうな顔をしていた。
「電気が付いていたからに決まってんだろうが」
「だからって」
 最低限のしか付けてないのに? しかも、今全部の電源を落としたところだ。信じられない。それが顔に出ていたからか、先輩がますます不機嫌そうな顔になった。
「で? どこか出かける用事でもあるのか?」
「まぁ、一ツ星居住区の様子見ついでにコンビニでも」
「はぁ?」
「いや、ちょっと色々と切れちゃってましてね」
「あぁ? だったら、頼みゃぁいいだろうが」
「着くまで時間かかるとか、わかります?」
「学園にそういった設備、作りゃぁいいじゃねぇか」
「人件費及びその時間帯に外部の人間が侵入しやすくなる隙間も作っている、という自覚もありますか?」
「チッ、かわいくねぇ」
「かわいくすれば、事態が収まることだと思って?」
 そう生意気にいえば、先輩が「チッ」とまた舌打ちをした。こういうときって、大抵言い返せないところなんだよな。猿投山先輩を押し退け、外に向かう。すると、先輩が後から付いてきた。
「待てよ」
「なんですか」
「テメェ一人で行く気かよ」
「そのつもりですが、なにか?」
 振り返らず聞けば、グッと後ろで呑む声が聞こえた。喉仏が動いた音なのかな、と思いつつ足を進める。先輩も動き出した。この人、人の後を尾けてなにが楽しいんだろう? バッと振り返ったら、先輩が驚いて止まった。
「な、なんだよ」
「いや、進む方向が同じなのかな? って」
「あ? あぁ!? お、おぉ、そうに決まってんじゃねぇか!」
「うっ」
 しかも急に大声を出してくるし。上から響く声はうるさい。先輩が咄嗟に叫んだことに、思わず耳を塞いだ。顔を真っ赤にして震えている。
「テメェ。んな反応をするたぁ、いい度胸だな?」
「流石に有事のときにはしませんよ」
 寧ろ耳も塞がない。そういえば、ピクリとだけ眉尻が動いた。
「そ、そうかよ」
「まぁ、有事の際でもとくに酷い出来事ですから、できれば遭いたくないのが実情ですね」
「おい」
「双方ともに被害が出ている状況なので」
 そこまでいうと、先輩が黙った。意外と爆音が飛び交う状況はヤバい。話が終わったのを見て立ち去ろうとすれば、先輩が動いた。私より一歩が大きい。振り返ろうとすると、先輩が間合いに入った。
「待てよ。近くにそういうの、あるぜ」
「えっ」
「俺とか伊織とか、犬牟田が使ってるんだけどよ。そこ、使ったらいいんじゃねぇの」
「え、そういうのあったんだ。知らなかったんだけど」
「おう。自販機だけどな」
「あっ」
 なんとなく察してしまった。けれど、もしもということがある。先輩に付いていき、学園の上層部に上がる。裁縫部は今日も眠らない。フル稼働だ。そこを通り過ぎて三ツ星のエリアに入ると、自動販売機があった。予想通り、大量のカップラーメンがある。豊富な種類も並んでいた。
「ここで夜食とかを買うんだぜ」
 そう得意げに聞いてくるけど、違う。私がほしいのはタンパク質とか塩分とか、体力のエネルギー源じゃない。脳の糖分となるエネルギー源だ。先輩を見上げる。得意そうな顔は変わらない。ふと隣の自動販売機を見れば、栄養ドリンクと徹夜を補助するドリンクが大量に並んでいた。
(あぁ、もう)
 皐月様もこれとこれと必要って理由から許可を出さないでくれ。そう思いながら、私も皐月様に申請しようと思った。


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