soak_in_a_bath

 昼はとても暑かったのに、夜になると涼しい。この寒暖差で寒気を感じて、お風呂を張ってしまった。(でも)一緒に入ること、ないのに。後ろから先輩に抱えられながら、お風呂に浸かる。入浴剤は、ない。体を少しだけ温めたい気分だからだ。その分、なにもかも見えてしまう。ギュッと体を丸めても、先輩が膝を立てて、引き寄せてしまう。これじゃぁ、意味がない。
「そ」
 続きをいう前に、先輩が顎を乗せてくる。スリスリと頬も乗せてきた。どうしよう、濡れているのに。そもそも、どうして。あっ、水嵩。先輩と私の分で、半分のお湯が胸くらいまで上がっていた。肩まで浸かる。先輩の胸の下まで降りたら「見えてんぞ」と言い出した。口まで浸かりながら、先輩を見上げる。あ、ピクッと眉尻が動いた。
「どの口がいうんですか」
 散々見てきたくせに。ブクブクと口から泡を吹くと、また先輩の眉間がピクリと動く。なにを怒っているんだろうか。斜めになった体を起こすと、指で頬をツンツンされる。
「そうだけどよ。少しは恥じらいってもんを」
「タオルを奪われた時点で、どうしろと」
「風呂にタオルはご法度だろ?」
「それはそうだけど。見たかったんですか?」
 そう聞けば、キョトンと返される。「えっ、そうだが?」みたいに思われても。不思議がる先輩に、肩を竦める。もう一度腰を落として、肩まで浸かる。ブクブクと泡を吹いていると、お湯から手を出してきた。ピチョンと音がして、濡れた先輩の手が、顔を触る。「取って食ったりしねぇよ」なんて保険をかけてくるけど、信用ならない。だって、前はそういうことをしたからだ。ブクブクと泡を出す。けど、先輩は一向に撫で続けた。
(楽しいの?)
 と聞きたいけど、恐らく本人には楽しいんだろう。私も、そうだったし。負けじと先輩の腕を触る。鍛えられていて、硬い。その感触を楽しんでいると、ピクリと先輩の体が動いた。腰に、なにか熱くて硬いのが当たる。もしかして、先輩。(うそ)チラッと見上げたら、真っ赤なしかめっ面が見えた。眉間に皺がすごく寄ってるし、への字に曲げた口の下にも皺が寄っている。(あ、あーあ)これってもしかして、すごく我慢している方? 居心地の悪さに、肩を丸めた。
「その、お風呂では禁止ですよ?」
「わぁってらぁ」
 顔の顰め具合が強くなると同時に、口も悪くなる。これじゃあ、先輩が落ち着けるまで出られそうにない。ピチャン、と体を起こす。少し距離を取ろうとしたら、先輩の手が伸びた。のろのろと、引き寄せる。それから弄る手を見て(あーあ)と思った。


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