おにぎり

 色々とやることが手一杯で、追い付かない。夕食は、もう軽く入れるだけでいいや。炊飯器を開けて、おにぎりを何個か握る。おかずは、コンニャクの残り物で。あぁ、それだとしたらお肉が食べたいなぁ。焼き肉。焼き肉のタレでしっかりと味付けしたもの。そう思ったら、先輩がのっそりときた。重い足取りだ。冷蔵庫から肉を取り出して、パックを開ける。
「焼くわ」
「うん」
「シャワー、浴びてこいよ」
「ありがとう」
 有難くその好意をちょうだいする。サッパリと汗を洗い流したいのは本望。けれど浴びた瞬間、全身の力が抜けて、やる気がなくなる。のろのろと自室から着替えを持って、脱衣所に入る。洗顔フォームも持ち込んで、体を洗う。髪も顔も泡で汚れを落としてから、サッパリとした。バスタオルで体を拭く。部屋着に着替えて、リビングに戻る。キッチンから、いい匂いがした。
「代わる?」
「ん、いいわ。それより、これだけでいいのか?」
「んー、握る?」
「おう」
 それでいいなら、俺はいいぜって口振りだ。先輩の答えを見て、炊飯器を開ける。ご飯はまだ残ってる。流しに置いたボウルを軽く洗ってから、水気を取る。それからご飯を装った。トントン、と必要な分だけ入れる。シャモジは使用続行。塩とふりかけ、どちらにしようか。(ふりかけでいいや)たくさんあっても困らない。パッと開いて、適量を入れる。シャモジで馴染ませてから、手を濡らした。
 保温したご飯を手に取って、キュッと握る。あまり、力は入れすぎないように。この力加減が難しい。少し苦戦していると、隣で肉の焼ける音と匂いがする。美味しそう。パッと中皿に焼き立てが積み上がった。どんどんと、山になる。
「それ、全部食べるつもり?」
「おう」
「安売りの日」
「を狙って行くか」
 そもそも、お肉のセールなんて、あったか。その日に他の買い出しもして。それから。キュッと形を整えたら「もうそろそろいいぜ」と待ったをかけられる。「それ以上だと、腹が膨れちまう」なんていう。そんな馬鹿な。おにぎりを積んだところを見れば、随分と山になっていた。
「わーお」
「な? ま、残ったら明日の分にしようぜ」
「うん」
「朝飯」
 朝を作る分がなくて、楽だ。できたてのおかずも持って、リビングに戻る。手を合わせて、いただきます。二品のおかずを食べる分だけ、小皿に入れた。あとはお腹と相談。箸を動かして、肉と野菜とコンニャクを食べる。その次に、箸休めでおにぎりを食べた。ふりかけが馴染んでも、白米は美味しい。チラッと先輩の方を見ると、パクパクと凄い勢いで食べていた。早い。流石成人男性。止まった手を、動かす。
「ん、千芳」
「なに?」
 ちょいちょいと手招きするものだから、顔を上げる。その瞬間、先輩の指が口に近付いた。親指で唇の下をなぞって、ペロリと食べる。そういえば、一粒落ちたような気が。
「食べれるのに」
「気付くのが遅ぇよ」
 食っちまったぞ。と先輩がぼやいた。


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