早く抱き潰したいさなげやま(2年生/閑話)

(あー、抱きてぇなぁ。抱きてぇなぁ。千芳のこと抱きてぇ。でも、今手ぇ出すと確実に怒られそうだしな。ついでに蟇郡のヤツもうるせぇ。あと『今はそんなときじゃない』だったか? 毎回んなこといって、逃げやがって。いや気持ちはわかるけどよ。確かに、今はそんなことやってるときじゃねぇけどよ。けど抱きてぇもんは抱きてぇんだよなぁ。なんだよ、あれ。俺に抱かれてるときはあんなに素直だってぇのに。どうしてこうも素面だと素直じゃないのかねぇ。いやいや、俺に抱かれてるときが演技ってぇのは、ありえねぇだろ。どう考えても。体の反応は演技ってもんじゃなかったぞ。オイ。演技にある反応の遅れってのはなかったし、不審な点もなかった。必ずあそこを突きゃぁ、ビクンと。ヤベェ、勃ってきた。平常心、いや平常心を保て。俺。ここでバレちゃぁ黙らすのに苦労する。いや、千芳の場合は股座に顔を突っ込ませばどうにかなるけどよ、蟇郡犬牟田蛇崩の面子がかったるい。それと皐月様に知られでもしたら、一生お天道様に顔向けができなくなる。おっ、萎えてきたな。良い調子だぜ、俺。いやマジで素直な息子で良かったぜ。は? 前言撤回。千芳、お前。なに勝手にこっち見てんだ。勃っちまったじゃねぇか。あー、抱きてぇ抱きてぇ。今すぐこの場を抜け出して適当な部屋見つけて、散々俺で滅茶苦茶になって喘いでるところが見てぇ。いや、お前を抱きたいだけだわ。単純に。試してぇプレイもあるし、一層のことロッカーに入れてそこで抱いてもみるか? 三つ星専用の体育館だと、邪魔者は入らねぇし。蟇郡は風紀部委員長の仕事で忙しい。犬牟田と蛇崩はそもそも使わねぇ。リハーサルをするなら文化部専用のホールを使う。わざわざ体育館を使うなんざ、運動部統括委員長の俺くらいだ。つまり、ほぼ俺専用の体育館といっても差し支えはないわけだ。あー、皐月様の場合は別だ。あの方はわざわざ使わねぇだろうし。そもそも、俺たち生徒会四天王が独自に動いていることに口出すなんざ、絶対にしねぇ。あっても悲願達成に必要な命令だけだ。っつーわけで、俺を止める者もいねぇ。俺の好きに使える。っつーわけで、千芳を体育館に連れ込んで抱き潰すか。アイツ、結構あぁいうシチュエーションにも燃えるタイプらしいからな。反応も濡れ具合も、部屋でするよりは激しかったし。あ、勃ってきた。ヤベェ。誰もいねぇところに連れ込んで『しゃぶれ』っつーったらしゃぶるかな。アイツ)
 そう数十秒で考えた猿投山に、文月が近付く。黙り込む様子に不信感を覚えたのだ。腰を屈め、怪訝そうな視線を投げる。
「あの、聞いてます? 先輩」
「あー?」
「そのお行儀の悪い足、やめてください」
(抱き潰すぞ)
 口ではなく、目で訴える。その視線にある脅迫に気付くことなく、文月は猿投山の足を叩いた。パシン、と。だがテーブルから足を降ろさない。猿投山は伸ばした足を組んだままである。「無駄よ。猿くんにはそういう知能なんてないじゃない」と蛇崩が毒を吐けば「でも、料理を置きますし」と文月が返す。「いや、そこで物を食うなんてありえないだろ」と犬牟田が返せば「でも、ソファの座り心地がいいし」と文月が返す。「ふむ。なら猿投山。少しは脇に退いてやったらどうだ? 座りたさそうだぞ」と年長者の気遣いを蟇郡が吹かせば、猿投山が口を開いた。
(襲っちまいそうだろうが)
「断る」
 本心を口に出さず、単刀直入で案を却下する。その一言に、文月と蛇崩が肩を竦めた。「なら、せめて足を乗せることはやめてくださいね」と文月がいい、蛇崩が「ほら、いわんこっちゃない」といわんばかりにスティックを回す。犬牟田は「当たり前だろ」といわんばかりに眼鏡を上げ直し、蟇郡は批難がましい目を向ける。
 それら全てに、猿投山は「ケッ」と吐き捨てて話を流した。


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