【R-15】巣篭りせっくす(卒暁後)

 もぞりと布団から出る。先輩が重い。喉もカラカラでつらい。そういえば、先輩が口移しで飲ませてきた水があったはず。手探りで探すと、中身のあるペットボトルがあった。(あった)もう少し頭を出す。ポフッと布団から顔を出すと、冷たい部屋の空気が顔に当たった。布団の中と違う。お互いすっぽんぽんだけど、裸で出たら大変そうだ。ズルリと先輩が落ちる。真上から人に覆い被さったので、落ちるのも当たり前である。
 蓋を外して、中身を全部飲んだ。
「んっ」
 まだ足りない。けど、残りはこんなことをした張本人に頼もう。少しだけ喉が潤ったことを確認してから、スマホを手繰り寄せた。あ、と声を出してみる。まだガラガラだ。SNSを開くと、この地域に雪が降っていると知らせてきた。そのハッシュタグをタップする。すると、雪の積もった桜が出てきた。
(わぁ)
 三月なのに、雪。気になって調べてみると、東北辺りにある季語だそうだ。それが、短歌を通して全国に伝わる。万葉集にも、同じ季語が使われていたのらしい。
「んぐ」
 私をこんなことにした張本人が起きた。ムクリと体を起こしたからか、布団に肌寒い空気が流れ込む。寒い。肩を狭めていたら、のそっと自分で布団代わりになってきた。温かい。けど、お尻に生柔らかいものが当たるのが、気になる。
「なに見てんだよ。あ? 桜か?」
「ん、雪が積もったんだって」
「マジか。今年は異常気象だなぁ。ここに、だろ?」
「ここに、だね」
 元々太平洋側に雪が降ることは少ない。それなのに降雪だ。先輩が体の向きを調整する。でも、お尻に生温くて柔らかいものは外してくれない。フッと先輩が体重を預けてくる。例えシーツに肘を着いて体重を浮かしても、重いものは重いのだ。
 先輩の二の腕を背凭れの代わりにする。
「前と違いすぎて、わからなくなっちゃう」
「まだ二月だと思ってたぜ。桜、咲いてんだな」
「うん」
 先輩の指が、勝手にスクロールする。
「桜と関係のねぇもんも、どんどん投稿してんな」
「SNSだから」
「ふぅん。コンニャクは?」
「ないよ」
 冷蔵庫になら山ほどあるけど。そう作り飽きたおかずのことをいえば「そっか」と先輩が返してくる。ギュッと脇を締めてくる。それに合わせて、私の動く幅も狭まった。
「食べるなら、一緒に飲み物もちょうだい。水」
「ん」
「キスじゃなくて」
 寧ろ乾いちゃう。唇を軽く突き出した先輩にいえば、お尻の柔らかいのが硬くなりかけてきた。
「腰、痛いから。もう無理」
「そうか」
「そうなの」
「散々無理させちまったからなぁ」
 そういって、わさわさと人の体を触ってくる。もし、いやらしい手付きになったら殴るからね。そう心に決めて眺めていると、労わるような手付きになった。
「店を連日で閉めるなんて機会、滅多にねぇし」
「緊急だったもんね」
「まぁ、心おきなく修行に明け暮れれるけどよ。けど、家にいてできることは少ねぇだろ」
「リングフィットもないし」
「あったら即行でクリアしてやらぁ」
(本当かな)
 そう思いつつ、ラインを開く。みんな、沈黙している。それぞれ暇を潰しているんだろうか? また先輩のが大きくなる。
「ダメ」
「やらねぇよ」
「本当?」
「おう」
 形だけの確認を取る。そうはいっても、そっちの方は元気そうなんだけど。ジト目で睨んだら、先輩が眉を下げた。渋々と、口を開ける。
「お、もいだしちまっただけだぞ?」
「そう」
「無理はさせねぇよ」
「そうかなぁ」
 人の肩をホールドして、よしよししてくるのに? その間にじとっと見つめてくる視線に、ジトっと返す。頬を膨らませて睨んだら、先輩が折れた。
「わぁったよ。けどよ、もう少しいちゃつくだけならいいだろ?」
「そ、れは。いい、けど」
「っし」
 なにが「よし」なのだ。なにが。そう返す暇もなく、先輩にギュッと抱き締められる。お互いすっぽんぽんで、私はスマホを触りたい。けど先輩は私といちゃつきたい。勝手に体を触らせる。頬や唇、さっきまで散々味わったっていうのに。まだ足りないんだろうか。
「渦」
「ん」
「今日は本当、もう無理だから」
「ちぇっ」
 行為の最中で呼んだ名前で、期待をしちゃったんだろう。渦の視線に熱が籠ったし、下半身の固いのが太ももに当たった。けど、散々中に出したじゃないか。これ以上だと、痛くて敵わない。
「キスをして、太ももで挟んで終わるだけなら、いいよ?」
「いったな? 後悔してもしらねぇぞ」
「いいよ。どうせ解除されたら、忙しくなっちゃうもん。先に補充しておくのもいいと思う」
 理由を述べて、腕を伸ばす。渦がそろそろと近付き、腰を抱いてきた。ピタッと下半身がくっ付く。固くなったのが、私の足の隙間に入った。
「あっ、ぅん」
 ポイっとスマホの枕の傍に投げ、渦の首に腕を回す。これでお互い離れることが難しくなった。自分の手首を掴みながら、渦のキスを受ける。ちゅっ、ちゅっと。啄むようなキスを繰り返した。その間に、渦の腰がカクカクと動いて、飲み終えたばかりのそこをまた濡らし始める。大きくなる、それの、刺激が心地よい。
「ん、あっ」
(布団の中で、挿入しないでいいなら、まぁいいか)
 そんな甘い考えを持ちながら、渦の好き勝手に抱かれた。


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