クッション

(このクッション、抱き心地が良い)
 買って正解だった。弾力のあるクッションに顎を預けていたら、のそりと渦が動く。ベッドに乗って、私が見てるのを覗き込んだ。
「面白いのか? それ」
「んー、すごく」
 スマホをタップして次のページを開く。読みにくいのか、渦が目を凝らした。私の肩に顎を乗せる。ようやく見れたのか「へぇ」と感心した。
「最初から読まねぇの?」
「今度紙で買うつもりだから、読む?」
「おう。っつか、また買うのかよ?」
「悪い? そもそもこれ、試し読みだし」
 今だけ無料。そういってスマホを指差すと「ふぅん」と呟いた。
「便利な世の中になったもんだねぇ」
「昔からでしょ?」
「日に日に一歩ずつ、技術は進化してるって意味だぜ?」
「それ、誰の受け売り? 犬牟田さん?」
 そう渦の言葉を真似ていったら、ムッとされた。「先輩?」と聞いたらムギュッと頬ごと唇を揉まれた。
「俺の考えだっつーの」
 といって、頬を揉みながら唇も撫でてくる。グッと体重をかけてくる。二人分の体重で、クッションも潰れそうだ。
「重い」
「これでもまだ軽い方だぞ」
「どこが? 自分が男の人だってこと、忘れてない?」
 ただでさえ身長が高いし、筋肉もある。それで私より体重が重いことも知らないんだろうか? 平均的な筋肉の密度に思いを馳せていたら、トクンと渦の胸が跳ねた。背中の肩越しに、ドクドクいう心臓を感じる。熱い。
「そ」
 いいかけた渦の口が閉じる。「え」となる前に別の形になった。
「そ、りゃぁな。お前よりは重いだろうよ」
「もし私が重くなったらどうする?」
「まず、お前の体調面を心配する。それで肥満になっちまったようなら、一緒にダイエットしようぜ。コンニャクダイエット」
「それ、渦が毎日三食、コンニャクを食べたいだけでしょ?」
「ハハッ、バレちまったか。でも、コンニャクはいいぜ。体に良い」
「はいはい。すごいね」
「おう、凄いぜ。コンニャクはよ」
 パタンとスマホが落ちる。渦から自分の手元を見ると、スマホがうつ伏せで落ちていた。ベッドに。
「『胃の箒』だなんてことも、いわれてるからな」
「ふぅん」
 チリトリは? といおうとしたけど、行き着く先は大腸なのでやめた。クッションに顎を乗せ直す。渦から目を離したら、ギシリとベッドがさらに軋んだ。
「夜の方も凄いぜ?」
 機に生じてそんな話をすることもやめてほしい。耳元で色っぽく囁く渦の声に「やーだ」と返す。プイッと顔を背けてクッションを抱き締めたら「ちぇっ」と唇を尖らせた。もぞもぞと体勢を直す。渦はギュッと私を抱き締めた。
「んだよ。たまにはいいじゃねぇか」
「気が向いたら。明日辺りにも」
 そういったら、ピクンと渦の体が跳ねた。脹脛に当たった膝が痛い。もぞもぞと渦が頬を寄せる。「じゃ、明日だな」と約束を取り付けた。「うん」ただ『気が向いたら』の話ではあるけれど。そんなことはいえず、とりあえず寝ることにした。
 夜も遅い。電気を消そうとしたら、もう既に渦が消していた。


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