手を繋がなければ出られない(本能字学園在学時)

『それは握手です』
 無慈悲な機械音が失敗を告げた。私は先輩と握手をしている。突然「手を繋がないと出られない部屋」に閉じ込められたのだ。どういうことだかわからない。でも急ぎの案件があるので早く終わらせたい。とりあえず顔を真っ赤にする先輩と無理に手を繋いだら、これだ。
「なんですかね、これ」
 他になにがあると。そう思って先輩の手を握り返すと、また先輩が顔を赤らめる。
「なにか良い案、あります? 早く出ないと」
「うっ、おう」
「手を繋ぐって、いったい」
 試しに手以外の部分──『指』も握ってみるが、「違う」と機械にいわれる。人差し指をギュッと握ってみるが、反応なし。代わりに先輩がビクッと震えた。
「なにか知ってます?」
「あ、あー」
「『あー』じゃなくて。出方」
 他にも色々とあるのに。作業が進まなくて苛々する。ムッと唇が尖ったら「うっ、あ」と先輩が呻いた。
「やり方なら、あるぜ」
「えっ、本当に!?」
「嘘じゃねぇよ。や、やったことはねぇけどな」
 じゃぁ、なぜ声が震えた。そう思いつつ、先輩に任せる。あ、手が震えてる。ちょん、と先輩の指が私の指に触れた。そのまま、ゆるゆると掌で指を包んでくる。
「手」
 ギュッと人差し指から小指を握ったまま先輩がいう。手、大きい。
「広げろよ」
「こう?」
 軽く手を広げたら、先輩の手が動いた。スッと指を撫でてから、指の間に入る。指の根元と根元がくっ付くと、止まった。
(手、すごい汗を掻いてる)
 指の根元からじっとりと湿り気がして、親指と小指を離して、疲れないのだろうか?「フーッ」と先輩が大きく息を吐く。頬も膨らまして、まるで『北風と太陽』だ。ゆっくりと親指を下ろす。じっとりと掌がくっ付き、指も握り締められる。手、大きい。すっぽりと先輩の手に収まった。
「文月。お前も手、握れ」
「ん」
 あ、しまった。『はい』だった。同じように指を寝かすと、カチャンと扉が開いた。といっても、鍵が開いただけである。扉は未だ閉じたままである。
「開きましたね」
 結果を報告しても、先輩はなにもいわない。
「出ましょう、か?」
 そう尋ねても、なにも答えない。先輩を見上げれば、ボーッと呆けたように口を開けている。そして顔を真っ赤にしたまま、私の繋いだ手を見ているのであった。


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