クリスマスイブのスポット

 今日はクリスマスイブである。聖キリストが誕生する前夜でもある。今日はそれを祝う日だ。けれども、世間では家族や恋人と過ごす日になっている。それだからか、歩くたびに恋人たちの姿がすれ違う。
「ラブラブだ」
 そうぼやけば先輩が「俺たちもだろ」と呟く。
「でも、恋人たちがするようなのをするわけでもないし。第一、今日は皐月様のパーティーに行くだけじゃん」
「それはそうだがなぁ」
「皆と会うんだし。恋人らしいことはできないよ?」
「せめて雰囲気だけは味わわせろよ」
「行きだけの道中で?」
「帰りの道中でも、だ」
 そう先輩が唇を尖らせていう。拗ねてる。先輩のを真似してマフラーに鼻を埋めてみるが、ない。そもそもマフラーをしていなかった。
(今年の冬は、あまり寒くないし)
 でも先輩は鎖骨を出すのを着てるから、防寒対策でしている。だぼついた首元を少し伸ばせば、口元が少しだけ温かくなった。
「少し寒いね」
「ん」
 先輩が手を差し出すので、私も握る。いくら例年より温かく感じたとはいえ、先輩の指先は少し冷たかった。ギュッと握ってポケットに入れられる。
「口も」
 そういえば、先輩がピタッと止まった。振り向いて、私と向かい合う。それから腰を屈めて軽くキスを落とした。けど、口元だ。口の端にキスを落としてから、軽く目を開ける。イルミネーションだ。クリスマスのイルミネーションがキラキラと光って、また先輩が口に落とし直した。ちゅ、と触れた先から冷気が熱を奪う。
「あー、なんつーか。帰り、寄っていいか?」
 どこに? の言葉は不要である。クリスマスのイルミネーションの下で恋人の二人がキスをしたら、やることは決まっている。少し周りを見渡せば、同じようにキスを始めようとする恋人たちの姿があった。まるで、感染病のようである。
「弾けるポップコーン、生まれる流行り」
「意味わかんねーぞ」
「感染病みたい、ってこと」
 眉を顰める先輩に軽くキスをしてから、指で周りをグルっと囲む。そうすると、先輩が周りを見た。そして納得した。
「あー、そういうことね」
「流行りのスポットになるかな」
「さぁね。どうせ、俺たちの他にもキスした連中はいるだろ」
「確かに」
 そう返したら、また先輩がキスを返した。あ、これはヤバい。先輩の目、マジだ。
「なぁ」
 熱の籠った先輩の目がいう。
「我慢できねぇ」
「してよ。久しぶりに会うんだから」
 皐月様と。そういいたくてギュッと先輩の鼻を抓ったら「いてっ」と先輩は目を瞑ったのだった。目から熱は引いている。興奮が少し冷めたようだ。
「ちぇ、わぁったよ」
「わかってね」
 そう言い残してもう一度キスを送れば「そういうところだぞ」と、ジト目で先輩が伝えてくるのであった。


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