さなげやまは付き合う

「ステイサムの出てる映画って、大抵当たりだと思う。アクションとか多いし」
 そういってくるもんだから「じゃぁ、この前見たのはどうだったんだ?」と聞いてみた。すると「微妙」との答えだ。
「私の見たいのと、気分が合わなかったからかもしれないけど」
「ふぅん」
「なんか、ステイサムの主役やってる映画とそうでないの、ちょっと違う気がする。あ、アレは除外で」
「ふぅん」
「セルっていう携帯を題材にしたヤツ」
 さっぱり分からん。っつーか、俺が見たことのねぇヤツなんじゃねぇのか? 見てねぇヤツを話題に出されても困るんだが。
「なんか、ド派手なアクションシーンもあって。結構カーチェイスも目を見張ったり、話も何回も急展開を迎えたりとか」
 あって、と。千芳はカップに口を付けながらいう。俺も釣られて飲む。中身はココアで、前に飲んだものと違う。確か、シガレットだ。シガレットを入れたとかいっていたな。
「ダークな雰囲気も良くて。あ、かといってあまり重いのは、ちょっと。今の気分じゃないけど」
「そうか」
「最初にズシンとくるけど、ラストでスカッとくるのがいい」
「そうか。で」
 確か、これシナモンだったか?
「シナモンが入ってるんだっけか? これ」
「うん、そう。最近シナモンを入れるのにハマってて。なんだか美味しいの」
 わかりやすいな。すげぇ喜んでる。あと入ったモンは当たってたようだ。正直、シガレットとシナモンの違いなんてわからねぇが。単純に「シ」が入ってるだけだろ。っつうか、女ってよくカタカナ言葉が好きだな。
「なんか、色んなのに良くって。良いらしくって。それで。でも入れすぎると匂いが」
「ふぅん」
「でも美味しくって」
「そうか」
 要領は得ないが、とにかく美味しいってことなんだろう。っつうか、人伝で聞いたことなんだな、それ。
(一体、誰に聞いたんだが)
 まぁ、ふわふわと話してる感じからして。同じ女からかもしれんが。にしても、この感じは蛇崩とは違うだろう。皐月様とも違う。あの二人は確実にシッカリとした中身で話す。なら満艦飾辺りか?
(いや、アイツらはカタカナ語なんて話さんだろ)
 じゃあ、俺の知らない誰かとなる。ネットか、そうでないか。
(まぁ、男でないだけマシか)
 っつーか、コイツが他の男と話すだなんて、あったか? いやないだろ。あっても犬牟田か蟇郡か、伊織。俺らの知ってるヤツらだけか。
(コイツ、人見知りは、まぁ、する方だっけか?)
 思い出しても、俺といるときのしか思い出せねぇ。ふと千芳が映画を見たままいう。
「あれ」
「あ?」
「これ、もしかして最後弟子に殺されるのかもしれない」
(ネタバレするんじゃねぇよ)
 とはいえ、コイツの思い違いもある。俺も黙って映画を見るとしよう。スイッチを触れば、映画はもう中盤を過ぎていた。「邪魔」と千芳がいうので再生ボタンを押す。まだ操作のヤツが出てるが、見れるだけマシだろ。そう思いながらココアを置いた。甘ったるさが後にくる。結局、千芳のいったネタバレがないとは思わせて来た。しかし今まで見てきた分がある。どうせどんでん返しがあるだろ。そう斜に構えてたら、全滅した。
「は?」
 え、と思って千芳を見れば、俺と同じように驚いていた。まさか、このオチとは思わなかったのだろう。カップを両手に持ったまま、千芳はポカンと口を開けている。そして呆然としている俺たちを尻目に、映画はとんでもないネタバラシをしやがった。俺が鷹を括っていた通りに、ヤツは生きていた。そしてヤツは自分を殺そうとした弟子を片付け、夕焼けへ消えて行った。
「え。嘘、マジ?」
 そして俺を信じられないような目で見るな、千芳。俺だってサッパリわからねぇよ。ハードボイルドな音楽を流して、映画は幕を引いた。流れるEDを前に、千芳はスマホを取り出す。ササッと映画の名前を入力して検索を始めた。そして画面とスマホを交互に見る。見ればウィキペディアだ。キャストの方を開いている。
「え、えー」
 一人で納得してねぇで教えろよ。ギュッと腕に力を入れれば、千芳が振り向いた。
「えっと、読んでいた、って話?」
 いや、わかんねぇ。っつぅか、お前もわからねぇのかよ。首を傾げる千芳に「そうなのか」と頷いてから肩に凭れかかった。やっぱ、この手の映画はわかんねぇな。
「すげぇな」
「あ、今度ミステリー漫画とか小説でも読んでみる? そういうのも楽しめるし」
「やめとく」
 っつか、活字読む前に寝るわ。ふわ、と欠伸をしてから残りのココアを飲んだ。


<< top >>
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -