風邪を引いた(咳が出る)

 風邪を引いてしまったようだ。頭痛もするし、喉もイガイガする。おまけに唇は風邪熱も併発している。試しに体温を測ってみれば、微熱だ。仕事中も、そんなに作業のミスが目立ったのだろうか──でも、私はミスをしてないと言い張りたい──先輩が「病院に行かなくてもいいのか?」と尋ねてきた。けれども、病院に行って、どう症状があるのかはいえない。なんとなく頭がボーッとして、どう症状を伝えればいいのかわからないのだ。
 フルフルと頭を横に振る。そしてベッドで安静といわれた。
「働けるのに」
「隣でボーッとされちゃぁ、堪らねぇよ。それに客に風邪が移る」
「人に移すと、風邪が早く治るって」
「迷信だろ。それとも、本当に信じてんのか?」
「うぅん」
 全くの迷信であるといえよう。その世迷い事は。ただ、人に風邪を移した病原菌はさらに強力となる話は事実である。病原学の学問かなにかで、そういう話が出た気がする。風邪になると、本当思考があっちにいったりこっちにいったりする。先輩の手が、額から外れた。
「けほっ、ごほ」
「他に辛いところはあるか?」
 先輩が症状を聞いてくるが、特に痛いと感じるところはない。たまに頭蓋骨の後ろや前と斜め対照的に痛みが生じるだけで、喉がイガイガする。あと、血管が凝縮した結果心臓に痛みが生じるくらいだ。錯覚だろうけど。フルフルと頭を横に振ったら、先輩が冷えピタを貼ってきた。額の熱が一気に引いて、寒さが増してくる。
「さむい」
「肩まで布団被ってろよ」
「というか、なんでお店休みにしたの? 仕事に出ればいいのに」
「お前がなにも食べないからだろ。せめてポカリスエットくらい飲めよ」
「きもちわるい。吐きそう」
「食わなきゃ治る風邪も治らねぇぞ」
「抗生物質飲めば、なんとかなる」
「ならねぇよ。余計に悪化するだけだろ」
「そうかなぁ」
 確かに風邪菌は強くなりそうだけど。一度風邪に罹ったら、対抗薬飲んだら逆に強くする機会を与えるという。だから病人は安静が一番だと聞いた。
(それなら栄養剤がほしい。こう、点滴で与えて)
 何度か過労でぶっ倒れると、よく医務室のお世話になったものだ。それで点滴をブッ刺されて、仕事に戻ることができる。裁縫部の人も、一部の人はよくお世話になっていた。
 そういうことを思い出すと、先輩が部屋から出て行く。気になって毛布を被って後を追うと、台所に立っていた。そこで、なにやらカチャカチャしている。
「なにしてるの?」
「お粥を作るんだよ。食えんだろ、そんくらいなら」
 そう先輩がいったけど、なにを作るんだろうか。お粥と一口にいっても、ミネストローネ? 卵雑炊? それとも塩辛いもの? そう思いながら椅子の上で丸まっていたら、先輩がテキパキと用意をした。
 お椀にご飯をよそって、小さな手鍋を用意する。沸かしたばかりのポットのお湯を適量手鍋に入れたら、火をかけた。再沸騰している間に、他の材料を用意する。なんか、冷蔵庫から見慣れたケースが出てきた。先輩ご自慢の、北関東秘伝のなんちゃら出汁だ。
(コンニャク入れるのかな)
 大抵、それを使うときに入れる出汁である。それを鍋の中に入れてグルリとシャモジで掻き混ぜると、お椀のご飯を一気に入れた。昨日の残りである。炊飯器の中には、昨日のご飯の残りが入っていた。
(そんなに、食べなかったし)
 なので一.五人分の量は残ってある。グルグルと掻き混ぜる先輩の背中を眺める。カッカッと音がするに、多分シャモジで切っているんだろうか。
(なにしてるんだろう)
 頭がボーッとするし動かすと痛いので、あまり考えられない。そうこうして毛布と膝を抱え直していると、完成品が出てきた。嗅ぎ慣れた北関東ご自慢の秘伝の出汁が香る。
「おか、ゆ?」
「お粥だ」
 半信半疑の私に先輩が頷く。お椀に添えられたレンゲを手にして、軽く一口を頬張った。美味い。魚と昆布で取った魚介類の出汁と醤油やらが、見事にお粥と一致している。ついでにお米を柔らかくしたのだから、消化にも良い。さらに解した梅干しの身も乗せてあるから、抵抗力を高めるには抜群だ。
 パクパクと食べる。料理人である先輩は、向かい側で暇そうに私を眺めていた。
「食べないの?」
「ちゃんと飲めよ。水も」
「水分は取るけど。先輩は食べないの? お粥とか、昨日のご飯を食べる分にはいいよ。柔らかいし」
「おう。わぁってる。とりあえず食い終わったら、ちゃんと温かくして寝とけよ」
 まだ治ってないんだしよ。そういって、先輩が立ち上がった。冷蔵庫からお茶を取り出す。二人分のグラスを出してお茶を注いだ。その一つを私の前に置く。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 そう返してから、先輩は前の席に座り直したのであった。


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