開店準備

 この時期には珍しく、雪が降った。降雪十センチ。防水加工をしなければ、充分靴に染み込む高さだ。通学中の子どもたちが、雪を掻き集めて雪玉を作っている。そして投げた。
「別に、雪かきする必要ねぇだろ?」
「溶けたので滑りますよ」
 店から出てきた先輩にいう。仕込みは終わったのだろうか。流石に外へ出ると寒いからか、作務衣にダウンジャケットを羽織っている。
「凍らねぇだろ。昼から暖かくなるしよ」
「そうだけど。でも、完全に蒸発するのとお客さんがくるの、どっちが早いと思います?」
「客」
「じゃぁ、それに合わせて準備をしておきましょうよ」
 昨日、あまり寝られなかったし。そういうと、先輩がボッと顔を赤くした。別に、そういうつもりでいったわけじゃないのに。
「深夜まで映画を見てたから、起きるのが遅れて、仕込みにも遅れてるんですよ?」
「お、おう」
「昨日の内に、大半をやっておいたから出荷には間に合ったけど」
「そ、そうだな」
「でも、準備が遅れてることには変わらないし、ペースを上げないと。ねぇ、そういう意味でいってるんですよ?」
「わ、わぁってらぁ」
 でも、と先輩が続ける。
「き、昨日。ちゅーの一つくらいは、してくれただろ」
 ぼそぼそと小声で喋って、目を逸らしながら尋ねる。ついでに耳まで顔を赤くして、もじもじとしだした。恥ずかしさでか、首を肩に竦めている。「キス」の一つもいえないのか、この人は。
「そうですね。で、これとそれとは関係あるんですか?」
「ね、ねぇよ」
 そう反論を返した、というか間接的に同意をした先輩の背中を叩いて、店の奥へと戻らせた。開店準備はこちらがするので、コンニャクの仕込みとか製造をしてほしい。そう思いながら、私も店の準備を始めたのであった。


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