神棚を飾りたい

 度重なる先輩のコンニャク実験に耐え切れなくなったのか。お鍋に穴が空いた。仕方ない、買い換えよう。そう決めて、ホームセンターに行った。コンニャク実験用お鍋の第二代は簡単に見つかった。他は、どうしよう。なにか買うものがないか見ておこうか。
 そんな感じでホームセンターを回ってると、先輩がある地点で止まった。ジッと、なにかを見ている。
「どうしました?」
 そう尋ねて先輩の見ている方を見ると、なにかがあった。なんか、神社の本殿を小さくして、なんかお供えも飾ったようなのを、模したようなのがあった。しかも、それがズラっと陳列棚に並んでる。
「なぁ、千芳」
「な、なんですか」
「あれ、良さそうじゃねぇか?」
 なにがだ。もしかして、何らかの宗教的ものに目覚めたのだろうか? それは危ない。さすがに『蒟蒻教』だなんて新興宗教を作られたら、たまったものじゃない。というか、そもそも経典はなんだ。ご神体はコンニャクか蒟蒻芋か? そしてイエス・キリストの代わりは蒟蒻芋本体? 種は聖母マリアの代わりか? ダメだ、頭が痛くなってきた。
 ジンジンと痛む頭を抱える。先輩は先輩で、神社の本殿を模した小さなのを見て、悩んでいる。とりあえず、宗教的な変な方向に進ませてはいけないな、と思った。猿投山コンニャク本舗のためにも。
「えぇっと」
 とりあえず、言葉を選んで尋ねる。
「なんで?」
「えっ? 七福神とかいんだろ? その、商売繁盛とか息災安穏を願ったりするんだよ」
 祈願っつーか。そううろ覚えで思い出しているところを見ると、どうやら変な意味でいったようではなさそうだ。ホッ、よかった。胸を撫で下ろすと、先輩が変な顔をして覗き込んでくる。殆ど、先輩のおかげでハラハラし通しだったんですよ、こっちは。
「じゃぁ、七福神を奉った方がいいのでは? えっと、その」
「『神棚』だな」
「そう、神棚。神棚って、どう使えばいいのかもわからないし」
「あー」
 そう尋ねれば、先輩が悩むような声を出した。悩む、というか唸ってる。でも悩んでるし。ムググと眉間に皺を寄せる、先輩の難しい顔を見る。
「家には仏壇もあったからなぁ。でも、親父もお袋もこーゆーもん飾ってたような気がするし」
「ご実家にあったんですか?」
「あったんだよ。確か。なんか普通にあったから覚えてねぇけど」
 でも、親父とお袋は手を合わせてたぜ。と先輩がいう。ふぅん。それならそうかもしれない。と思いつつ、私もそんなにそれが記憶にない。普通にありすぎると、存外記憶に残らないものだな、としみじみと思う。
「でも、誰を祀るんです?」
「え?」
「いや、その状態だと空ですから。ちゃんとお供え、というか祀る神様決めないと、変なのが入っちゃいますよ?」
「そ、そうなのか?」
「そうですよ」
 この人、自動的に神様がフラフラときて入るものだと思ったのだろうか?
「色々とやることが多いんですから、そう気軽にやれるものじゃないですよ」
「そ、そうなのか」
「そうですよ」
 これで二度目だぞ。そう思いながらも、驚く先輩の目を見る。ムスッとしてる私の姿が、見えるだけだった。
「そうか。今度、親父にでも聞いてみるかな」
 喧嘩すると困るし。そういいながら、先輩はこの話を終わらせたのであった。神棚のコーナーを離れる。後日、敷金と睨めっこをしながら頭を抱える先輩を見るなど、思いも寄らなかったのであった。
「壁に、穴を開けるのかぁ」
「敷金、戻りませんよね」
 そう告げると、先輩は溜息を大きく吐くのであった。
「はぁ」
 まだ道のりは遠そうである。


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