07.5

後輩と谷垣くんを置いて、尾形さんに追いついた私は、口を尖らせて抗議する。

「ちょっと!尾形さん、怪しいですよ」
「何がだよ」

平然と言う尾形さんに、あの2人に聞こえるはずがないのに、つい声を小さくして返す。

「…だから、急にあんな風にして2人で抜けたら、私たちのこと、ばれちゃうじゃないですか」

それを聞いた尾形さんは、面白そうにプッと吹き出し私を見て、「阿呆。お前さ、意外とそういうの鈍感なんだな」と、呆れた目線で私に身体を寄せて、とん、と肩で私を軽く小突いた。

「……え?」と、疑問顔の私に、「なぁ、あいつら今日一線越えると思うか?」と、ニヤリと悪い微笑み。

(……)と、数秒考えて、点と点が、線でつながった。谷垣くんと、後輩は…。

「前から思ってたが、今日見て確信した。絶対お互い気があるよな。谷垣とかクソ真面目だから、ここまで仕立ててやっても、手出せるか分からんがな」と、自分の見立てが当たったことに満足げな尾形さんと、「あー!もう、そういうことね!」と、天を仰ぐ私。

良かった。と、内心ホッとした。
以前、後輩が尾形さんと私がいるところでいきなり、オフィスラブか、なんて呟くものだから、バレたのかと思って焦っていたのだ。あれは、谷垣くんとのことだったのか…。

「尾形さんって、意外とそういうの敏感ですよね」と改めて感心すると、「お前が色恋に鈍いんだよ」と返される。

「そっかー……わー!でも、あの2人が…」と、想像し、「…でも谷垣くん真面目だからな。私は、やっぱり今日は一線超えないと思いますよ」とウンウン頷いてひとりで納得。だって、あの谷垣くんだもん。谷垣くんは谷垣くんだもん。

「…今日越えないでいつ越えるんだよ」と白けた顔の尾形さん。
「大体、越えないと始めたいものも色々始まらないだろ。社会人にもなると。だろ?」と、含みのある目線で私を見る。
……それって私たちのことかしら?と、顔に熱が集まるが、まあ、ソレはそれとして。

ゴホン、と咳払いして、「ところで、私はもうあっち方面には帰れないので、今日は泊めてくださいね」とお願いする。
「ああ、金曜日だし、ちょうど良かったじゃねえか」と言ってくれたので、急遽予定外のお泊まりが決定。

…なんだかんだ言っても、こうやって一晩長く一緒に居られるのは嬉しくて、つい足取りも軽くなってしまう。思わず尾形さんをチラッと見上げて笑顔になると、尾形さんも口角を上げる。

「なあ、俺らも今日一線越えるか?」と、私の腰を抱いてニヤりと囁く尾形さんの腕を、ムギュっとつねって、「どうですかね…?尾形さん真面目だからな…」と返してあげた。

面白そうに笑って目尻を下げた尾形さんが、珍しく私の手を握ってくれる。

手を繋いだまま、私たちは一歩ずつ歩き出した。

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