◎薔薇のとげ
セージさんとの修行が終わったあと、私は外に出る。
うん、と背筋を伸ばすと凝り固まった筋肉がほぐれる。
「あー、修行きつかったぁ」
汗ばんだ体を、乾いた風がなでてくる。
「涼しいなァ…。」
一人、風を感じながら目的無く歩いているとどこからか微かに匂いがした。
「薔薇の香り?」
風に微かに混じる芳しい香に私は興味を引かれた。
その香りがする方へと足を進めていった。
木々をかき分け、しばらく歩を進めると開けた場所についた。
「わぁ…」
開けた土地には大輪の薔薇が咲き誇っていた。
鼻についての知識があるわけではないので品種はわからないが、
赤く咲いた薔薇はいままで見た薔薇の中で一番美しかった。
「なんて、綺麗なんだろう。」
ゆっくりと指を伸ばして、薔薇に触れる。
「っつ!」
だが、花の陰に隠れていたとげに指をさしてしまった。
指を見るとぷくりと赤い点のように血がにじんでいた。
「あててて…。
触るなってことかな?」
からかうようにそう聞くと、急にしぼんでしまった気がする。
鼻がそんなことでしおれるわけがないので恐らく目の錯覚だろうが、なんとなく気になって「冗談だよ」と声をかけた。
「それにしても、綺麗だなぁ」
咲き誇る薔薇を改めて見渡して私は息をついた。
こんな綺麗な場所があるなんてやはり聖域はすごいところだなぁ、なんて感心してしまった。
「おい!」
「え?」
背後から、誰かに呼ばれた。
突然のことに驚いて、肩を揺らす。
恐る恐る振り向いて、私は息を飲んでしまった。
長い水色の髪に、水色の瞳。
思わず見惚れてしまうほど美しい男性が鬼気迫る顔で私を睨んでいた。
「…どちらさまで?」
「それはこちらの台詞だ!何故こんなところにいる!
死にたいのか!?」
「え…?
死にたいって?」
突然出てきた物騒な言葉に驚いた。
男性は怒気を強めてさらに続ける。
「此処は、香りですら猛毒を持つ毒薔薇園だ。
そんな所にいるなんて、死ぬつもりか!?」
「ッ毒!?
え!?思いっきり触ったんだけど!?」
「なんだと!?」
とげで刺した指を見た。
指先にはぷっくりと紅い血が円を作っていた。
「…え?
私死ぬの・・・?」
さーっと顔から血の気が引く。
昨日サーシャと聖戦を止めるという話をしたばかりだったのに、こんなところで死ぬなんて間抜けすぎる。
だが男性はその質問には答えず、私の指先を見て目を見張っていた。
「なぜ、毒薔薇の毒が効いていない…?」
・・・え?
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