「戻れるわけないよねっ…!知ってた!」
長時間、片膝付きながらガッツリとお説教を食らったせいで、足元がおぼつかない。
足がしびれて階段から転げ落ちそう・・・!
セージ様がわざわざ治療してくれたのはすっごく嬉しかったけどね!あたしはまだヒーリングとかできないし!
…説教の邪魔になるから人呼びたくないとかそういう理由じゃないよね?
「うぅ…もう夜かぁ。
お月様、あんなに高いところにある」
十二宮の階段から空を見上げればとっぷり夜になってて、登るときに見えた朱色の面影なんてどこにも無かった。
「…マニゴルドはもう寝たかな?」
それか街に行ってるか黄泉平坂にいるかな?
もう青銅聖闘士用の部屋戻るのだるいから、勝手に巨蟹宮に泊まらせてもらおうかな。
そんなの、いつものことだけど。
なんて思いながら、巨蟹宮までくると月で出来た黒い影が伸びていた。
「…あれ?」
夕方と同じように、柱に寄りかかってこちらを睨むマニゴルド。
その顔はなんとも言えないような顔をしていた。
「やけに遅かったじゃねえか。
お師匠にありがたい説教でも食らってたか?」
「ありがたいことにねー。
正直、任務より体力使ったわ」
「お前は余計なこと言って説教長引かせるからな」
「言ってないから!」
流石にセージ様相手に余計なことないわないわー。
あの人笑顔で怒るから茶化せないんだよね。
マニゴルドが説教してる時は茶々入れまくるけどね。
「それより、こんな時間にこんなとこでなにしてんの?
てっきり、外でてるのかと思った」
わりかし本気で街に出てると思ってたんだけどなー。
どうせここにいても今のところやることないだろうし。
あたしもまだまだ考察が足りないみたいだな。
「…そういう気分じゃなかったんだよ」
「…なに、まさかマニゴルド、振られたの?」
そういうとマニゴルドは見たことないくらい渋い顔した。
…このリアクションは図星かなぁ?
なるほどなるほど、だからそんなに変な感じなのねー。
いやぁー珍しいこともあるもんで!
「ほっほぉー、珍しいですなぁー。
天下のイタリア男が振られるなんて!
見る目ありますなぁ、その女!」
にやにやと、冗談半分で嫌味ったらしく笑うけどマニゴルドは反応しないで額に手を当てていた。
…え?まさか?
「…え?まさか、なに?本当に振られたの?」
まっさかー!街中歩いてりゃ高い頻度で声かけられて、女に困ったことがないような人が一般の女に袖にされるっていうのはなかなか無い。
でも、師匠って極端だから好み分かれそうな気もするけど…うーん?
とかもやもやしてたら、大きなため息吐かれた。
「…いや、馬鹿だとは分かっちゃいたが、馬鹿もここまで来るといっその事清々しいなって思っただけだ、馬鹿弟子。
ほんと死ね、100ぺんくらい死ね。むしろ殺す」
「何故!?」
理不尽にもほどがある!
なんて抗議するが、マニゴルドの目に軽く殺気がこもってるのがわかって、さすがに焦る。
師匠に本気で殺しにかかられたらわりかしマジで死ぬ。
「…まあいいな、今更なことでごちゃごちゃ言ってもな」
「…あたしってそこまで馬鹿ですか!?」
セージ様に教えて貰っているとはいえ、学の方はないよりはマシ程度だし。
戦闘の方も、深く考えないで感覚で行くことが多々あるからそこもよく怒られるところだ。
でも、馬鹿か馬鹿じゃないかって言われたら…どうなんだろう、そこまでじゃない気もするってのが自己評価なんだけど。
「少なくとも、それを俺に聞く時点でお前は馬鹿だな」
「…でーすーよーねー」
この人がそう素直に教えてくれるわけないですよねー、知ってた!
「お師匠、なんか言ってたか?」
「うーん、何か謝られた。
初任務が血生臭くて申し訳ないってさー。
別にいいのになぁ、そんなの。
セージ様は教皇なんだから、そんなこと気にしないでいいのに」
「ハッ!今更だな。
積尸気使ってる時点でこいつにまともな倫理観あるわけねえだろ」
「実際その通りだから否定はしないけど、それブーメランじゃね?」
「それこそ、今更だな」
・・・そりゃそうだ。
あたしにもこの人にも、倫理観なんて殊勝で哀れで、つまらない価値観なんてあるわけない。
人様の魂いじくりまわしてるような奴に、まともな神経してるやつがいるわけないさ。
・・・あ、セージ様は別枠で。
「…ほんと、気にしなくたっていいのにね」
・・・これから先、この手を真っ赤に汚すことなんでざらになるだろう。
でも、それは承知の上で、覚悟の上なんだ。
どんなことをしてでも、自分が誰になんて罵られようとも。
「あたしは、師匠たちのために戦うだけですよ」
それだけが、あたしの闘う理由だから。
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bkm