「…つまんねぇ事いってんじゃねえぞ、馬鹿弟子。
お前に守られるほど俺は落ちぶれちゃいねえ」
「う…っ!
いやいや!これから強くなりますって!それこそ師匠くらい!」
「俺を越えるって言わない時点で程度が見えてんだよ。
その程度の覚悟で聖闘士名乗ってんじゃねえよ」
「…すみません」
本気の殺気を滲ませながらこちらを睨む師匠は黄金の名にふさわしいくらいにはとても威圧感があった。
どうやらあたしは師匠の触れちゃいけないところに触れてしまったらしい。
「ったく、お師匠がお前を心配する理由がホントよくわかるな。
お前、俺に執着しすぎなんだよ。もっとほかの事考えて戦え」
「…そんなことないと思いますけど」
「無自覚かよ。性質わりぃな」
ケッとそっぽ向いた師匠。
なんだか師匠に見捨てられた気がして心臓がいやな音を立てる。
指先が震えるし、サッと体温がすごく下がった気がする。
師匠の顔が見れなくて視線がどんどんと下がる。
「す、みませ…」
震える声で謝ろうと顔を上げたあたしの目の前にきらりと何かが飛んできた。
突然のことでとっさに掴めず、なんどか宙に投げながらもなんとか掴む。
金属の冷たさがじんわりと手のひらに広がった。
「え…?」
ゆっくりと手を広げるとそこには月の光を受けてきらりと光る金の髪飾りがあった。
金でできた筒型をしており、青い宝石で丁寧彫られたバラが金でできた月を囲うように咲き誇っていた。
一見しても高価なものだとわかる装飾品に面食らう。
「やるよ、それ」
はっと顔を上げるとすねた子供のような顔をした師匠がこちらを見ずにたっていた。
「女にやろうとしたけど、振られたからな。
お前にやるよ」
「え?は?へ?なんで?え?」
師匠と装飾品を交互に見比べながらあたしは混乱する。
唐突の出来事に理解が追いつかない。
「お前の初任務記念と青銅聖闘士昇格祝いって事にしてやるよ。
いつまでも俺が持ってても仕方ないからな。
…あとは好きにしろや」
「あ、ちょ!?マニゴルド!?」
それだけ言うと師匠はピッと利き手の人差し指を立てる。
一瞬燐気が人差し指に纏ったと同時に師匠の姿は跡形もなくかき消えた。
「…いっちゃった」
わずかに残った燐気と小宇宙の名残を感じながら、先ほどまでマニゴルドがいたところをぽかんと見つめる。
そうしてしばらくたった後に、もう一度手の中に収まったお月様を見つめる。
「…綺麗」
手に収まった月を、夜空にかざす。
それは今まで見た度の月よりも美しかった。
「…あんたがそういうなら、そういうことにしてあげますよ。師匠」