優しさとは
「…めっちゃ痛い…」




ぶったたかれた直後に巨蟹宮を文字通り蹴りだされた。
二回も光速で叩かれた上に、背中まで蹴られた。
正直、任務で負った怪我より痛い。



「にしても、マジでマニゴルドはなにしたかったんだ…?」




…短くない上に出会ってから四六時中一緒にいるけど、あの人の考えがわかったことなんて少ない。
でも今日のあの人のあの様子は、いつもと違った。
…なんか師匠らしくなかったなぁ。


「まあ、いいや。さっさと報告してセージ様安心させないと」





初任務が小規模な反聖域派組織の殲滅だったから、セージ様にだいぶ心配されちゃったんだった。
これ以上遅くなると、小言が増える。
なんたって軽傷とはいえ怪我したんだから、確実に怒られる!









ーーーーー






「ー以上でございます」




玉座に腰を掛けるセージ様にあたしは報告を済ます。
残念ながらセージ様の欲しかった情報は潰した組織から得ることができなかった。
しょうがないとはいえ、有力な情報の一つや二つ持ってろよ。




「そうか、ご苦労だった。
それでどうであった?初の任務は」




「うーん、上々ですかね?
情報手に入らなかったのは残念でしたけど、当初の目的である全滅自体はできましたし…」




それを聞いて、セージ様が少し悲しそうな顔をした。
仮面で目元が隠れてようがわかる、もの憂げな表情。





「…すまなかった、なまえ。
お前の聖闘士としての初の仕事が殲滅とは…」



「気にしないでください、セージ様!
あたしだって未熟者ですが積尸気の使い手。
この技をマニゴルドから学んだ時から、この手を汚すことなんて覚悟の上です」



それこそ今更だ。魂を燃やし続けてきたあたしは罪悪感なんて上等なものはとうの昔に捨ててしまっていた。
それ以前に、スラムで生きていたあたしの手が清らかだなんてことは一回も思ったことがない。
汚れるべき手が汚れたところで、なんの支障もない。





「あなたが嘆くことなんて何もありません。
聖闘士として、当然のことをしたまでです」





だからお願い。
あたしは、あなたのそんな顔なんて見たくないのです。





「…あぁ」




 
セージ様はあたしやさしげに微笑むと、手招きをした。
あたしは素直にセージ様の近くまで寄ってから膝を折ると、セージ様の大きくて、硬い手があたしの頭をなでた。





「任務達成ご苦労であった。
もう今日は休むといい、マニゴルドも心配していたぞ」




「えー?マニゴルドとさっき会いましたけど、思いっきり蹴りだされましたよ?」




「気恥ずかしかったのだろう。
それに可愛い弟子が怪我をして帰ってきたせいで、腹が立ったのだろうな」



「…バレました?」



「ふふふ、なぜ私にバレないと思った?」




ニッコリ笑うセージ様。
お綺麗だけど、この表情はヤバイ。
だってこれ、起こってる時の顔だもん!
口元が思わず引きつると、セージ様はなだめるように優しく頭を撫で続ける。
あ、やばい。撫でられると気持ちよくて気が抜ける。
これから説教なのに気が緩んだらダメージがでかくなるっ!




「なに、ほんの一刻の小言だ。気張る必要などなかろう」



「いやぁー、教皇様のお小言なんてわたくしにはも恐れ多すぎてーちょっとー」



「なに、お前は又弟子だ。もはや私の弟子と言っても過言ではないのだ。
つまり、弟子に説教するのは自然の理であろう?」





言外に逃さない、っていうのをバリバリに醸し出すセージ様。
優しく撫でていたはずの手は、いつの間にか肩に移動していて、しっかりとあたしの片肩をホールドしていた。
あ。これ逃げられないやつだ。 






「や、優しくしてくださいね?」



「心配せずとも、私の説教は優しさに溢れている。
しっかりとその優しさを受け止めるのだな」





…日が暮れる前にベッドに戻れるかな、これ?


























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bkm
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