ある日の夕暮れ
「よう」





あたしが聖闘士になってから初めてもらった任務の帰り。
教皇宮に向かう夕焼けが眩しい12宮。よく入り浸っているーというよりも、ほぼ住み着いていると言っても過言ではないー巨蟹宮を通りすぎようとした時に声をかけられた。


良く知る小宇宙と声に、あたしは思わずため息をついた。




「おい、師匠が話しかけたっつうのにため息つくとはいい度胸じゃねえか」


「…あんたの声聞いたら一気に疲れたんですよ、気が抜けるから報告終わってから聞きたかったなぁ」





さっきまでは変な高揚感で眠気どころか、疲れすら認知してなかったのにこの人の声を聞いたら張り詰めていた気が抜けて、一気に疲れが出てきた。
ついでに、眠気どころか任務中におった傷まで痛みだした。最悪だ。






「気ィ抜いてんじゃねえよ、馬鹿弟子。
教皇に報告して自分の部屋戻るまでが任務だって嫌っつうほどたたきこんだだろうが」



「…へいへい、えろうすみませんでしたー」






絶対にわざとだ。
このひと…我が師匠ながらなんて性格が悪いんだ!
支障を一瞥してから、あたしは嘆きを吐き出すようにもう一回大きなため息をついた。




「おいこら、改めて溜息はいてんじゃねえよ。積尸気冥界波喰らわせんぞ」



「勘弁しろください…こちとら疲れてあんたの相手してる暇ないんですよ。
てか、今からセージ様のとこ行かないと」





報告して帰るまでがーとかいいつつ、達成の邪魔しくるのが我が師とか何ていう罰ゲームなんだろうか。
ほんと、早くセージ様の顔見て癒やされたい。
こんなチンピラの顔なんかじゃ癒やされない。イケメンだけど。





「お前、今すげえ失礼なこと考えただろ?」 


「よくわかりましたね、野生の勘?」


「お前のその腹黒い顔見てりゃ一目瞭然なんだよ。
聖闘士ならポーカーフェイスの1つや2つ使いこなせっつうんだよ。
だからいつまでたってもポーカー弱いんだよ」



「…素直って言ってくれますー?
それとあたしがポーカー弱いんじゃなくて、あんたがイカサマするから勝てないんだよ」



「お前が素直だっていうんだったらこの世界の大体の人間は素直になるぜ。
あと、俺はイカサマなんてしてねーぞ」




「してるしてないじゃなくて、バレなきゃイカサマじゃないんでしょ?あんたの場合」

 


じとっと師匠を睨むけど、師匠は「よくわかってるじゃねえか」とケタケタ笑うだけだった。
ほんとに何がしたいんだ、こいつ。




「で?
マジでなんのよう?黄金聖闘士様は成りたての半人前青銅聖闘士に絡むほど暇なんですかー?」



「半人前どころか4分の1人前にすらなってない奴に用もないのに絡むほど黄金聖闘士様は暇じゃねえよ。」


「………だから、その要件を早く言ってよ。マニゴルド」





むすっとだんだん顔が不機嫌になるのを自覚する。
ついさっきポーカーフェイス云々かんぬん言われたばっかりだが、この人のつかみ所のなさは時々無性に腹が立つのがわるい。魂葬破ぶちかましたい。






「殺気漏れてんぞ。だからお前は半人前にすらなれねえんだよ。
雑兵ならまだしも仮にも青銅聖闘士がそう簡単に短気起こすんじゃねえ」


「ぴぎゃっ!?」




スパァアンッと、小気味いい音が巨蟹宮に響き渡る。
音の発信源は、あたしの脳天。
師匠が光速であたしの頭を叩いたせいだ。





「〜〜〜いったぁああ!!!???
何すんだよ!!!!頭が首ごと持ってかれるかと思ったわッ」



「頑丈さだけは白銀以上だなーお前」



どうやらこの師匠はあたしの首を使い物にできなくするつもりだったらしい。
あんたの平手まともに食らったら巨蟹宮に変なオブジェが出来上がるわ。




「そりゃ毎日毎日光速拳やら光速の蹴りやら受けてるからな!!!!嫌でもなれるわ!!!なれなきゃ死ぬわ!!!でも流石に不意打ちはひどくない!?」


「うっせー、避けねえのが悪い」



「避けられるか!!!ふざけんな、このバカ師匠!」









その言葉と同時に、二回目の小気味いい音が今度は12宮中に響いた。














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bkm
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