「藤木は、いつでもそうなんです。みんなの輪に入るのが上手くって、人と仲良くするのも得意で」


ぽつり、言葉が零れた。


「それに比べて、私は……上手く話せないし、逆に相手に気をつかわせちゃったり、嫌な思いをさせたり。藤木はこんな私とも仲良くしてくれる、友達なんです」


膝に置いた手を、思い切り握りしめる。


「だから、私も何か役に立ちたくて…、頑張り、たくて…でも上手くいかなくて…。また、助けてもらって……」


歯痒い。
元の世界でも、この世界でも藤木に助けられてばかりで何ひとつ返せないことが。

藤木は『何もできてないわけない』と言うが、けれどゆきからすれば『何もできてない』のだ。


「私は藤木のお荷物になるしかないのかなって……考えてたら、何か、いたたまれなくなったというか…」
「…そっか」


慶次は、ゆきの話を聞ききると、空を仰いだ。


「ゆきちゃんはさ、藤木ちゃんが好きなんだなーってことは判ったよ」
「…………はい」
「何だ今の間」


堪えきれず、慶次は吹き出した。


「“お言葉に甘える”って難しいよな」
「慶次さんは得意そうですけど」
「ゆきちゃんが辛辣!」


そう返すと、ゆきは慌てたように謝った。


「ここにいる間は…いや、生きてる間はさ、誰かと接さないでいることなんてできねぇんだ」
「そう、ですよね」
「だから、ゆきちゃんは藤木ちゃんに対人面で頼ることもまだまだあると思うんだ」
「………」
「ならさ、その他なら?」
「あ…」
「いっそのこと、人とのやりとりは藤木ちゃんに丸投げしちまうってのはどうだい?」
「それは…どうでしょう……?」


ゆきは少し困ったように笑った。既に、あの寂しげな色は霧散していた。


「…ゆきちゃん、」
「はい?」


慶次が手を僅かに伸ばした―――瞬間。


「てんめぇ、ゆきに不埒な真似してんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」


藤木のとび蹴りが、慶次の横っ面にクリーンヒットした。


「大丈夫、ゆきっ! 孕まされたりとかしてない!?」
「話してただけで!? 歩く18禁扱いなの 慶次さん!?」
「……いってぇ……」


廊下を転がっていった慶次が、頬を擦りながら立った。


「俺はただ、ゆきちゃんの髪についてたゴミを取ろうと…」
「と、言いながら段々手が下りてくるのが手口だから、ちゃんと気をつけなさい、ゆき」
「え、う、うん」
「……藤木ちゃんも大概だな、こりゃ」
「え? 誰が、大概だと? あたしのおもちゃに手ぇ出したお前に言われたかない」
「私って物好きさんにしか好かれない感じなの…?」


誰一人ゆきの地味に失礼な困惑に気づくことはなかった。


「ところで、ゴミってどこ?」
「あ、あれだよ」
「あ、虫じゃん」
「…虫? え、虫……!?」


ゆきは今にも叫びそうになったが、その前に藤木が虫を払ってくれた。


「全く。何で気づいてたなら、取ってあげないの?」
「藤木ちゃんがとび蹴りしたからだよ!」
「藤木、責任転嫁 乙!」
「ゆきちゃん?」


二人一緒なら、強くなる。
そんなことがよく判ってしまった。


「何を騒いでいるんだ、お前らは」
「か、かすがさん! まさか、あたしがいなくなって寂しかったんですかっ!?」
「そ、そんなわけがあるか! お前は佐助かっ!」


真っ赤になって否定するかすがには、説得力と言うものが全くない。

と、ゆきが横からすっ飛んできた。


「す、すみません! この子、綺麗な方とか可愛らしい方とか見ると見境なく襲いこみかけるんで逃げて下さい!」
「あ、ああ! 礼を言うぞ、ゆき!」
「いえいえ!」


かすがが広間へ消えると、藤木はどこか楽しそうに笑った。


「………あたしが絡むと、こんなに流暢とはねぇ」




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