宴も順調に進み、
どんどんとあいた徳利が増える。
それを傍目に見ながらゆきは感心したように嘆息をついた。




「皆、すごい飲むんだね。」


「そりゃ大人だし、酒は命の水だからねー。
戦で疲れた心をいやすのには適量だと思うよ?」




訳知り顔で言いながら、藤木も盃の酒をなめていた。
それを見て慌ててゆきが盃を取り上げた。




「ちょ、藤木!何飲んでんの!?」


「えー?だってすすめられたんだもん。」


「駄目!あたしらまだ未成年だよ!?
お酒は飲んじゃダメ!勧められたら断んないと!」


「そーは言われてもさ、付き合わないと逆にまずいでしょ。
一応あたしらはまだ完全に警戒を解かれてるわけじゃないしさ、ここで友好関係作っとかないと。
それに“俺の酒は飲めないのか?”状態になんのはごめんだし。」







それに舐めてるだけで飲んではないし、なんて平然と口にする親友にゆきはため息をついた。





「そりゃそうだけど…。
体に良くないよ。」


「酒なんて元から体に悪いから!」





ケタケタと笑う藤木。
そりゃそうだけど、なんて言いながらゆきは恨めしそうに藤木を見た。
その時、赤ら顔をしたおっさんがゆきに近づいた。




「一羽殿〜!
いっぱいどうです?」


「ひぎぃ…!?」






いかつい赤ら顔のおっさん。
それを目の前にしたゆきは完全に硬直してしまった。




「一羽殿は先ほどから全く飲まれてないではありませんか〜。
ここはグイッと!どうぞ!」

「は、はひぃ…」




おっさんが先ほどゆきが藤木から取り上げた盃にあふれるほどの酒を入れる。
ゆきはおっさんに近づかれただけでつらいのに、
おっさんの目は酔っぱらってもなおぎらぎらと輝いていた。




(これ、完全に信用されてないよねぇええええ!!!!!!!)




震えすぎて、酒がこぼれる。
もうどうにでもなれ!という風に盃に口を付けようとしたとき




「あ…」





藤木がひょい、と盃を奪った。
それをのどを鳴らして飲み干した。
唖然とする周りをよそに、
藤木はぷはぁ、とのんきな息を漏らすとにっこりと笑った。




「…あいにく、ゆきは酒が苦手でしてね。
飲むとすぐに倒れてしまうのです。
ですから、かわりに私が頂きましょう。」


「おぉ…そうであったか。
では杜若殿。どうぞ。」


「有難うございます。」





にこにこ笑いながら継がれた盃を飲み干すと、今度は徳利を傾け相手の盃を満たした。




「これはわたくしからのお近づきの印に。」



「おぉ、かたじけない。」




そんな大人な対応を目の前でやられ、ゆきは唖然としたままだった。
そうこうしているうちに、藤木の周りに人が集まり、ゆきはその場を離れた。











「なんていうか…すごい大人の反応だったな。
藤木って。」






宴の喧騒から離れて、ゆきが庭を眺めていた。





「そうだねぇ。
あそこまで堂々とされると、なんだか逆に疑う気もなくなるよね。」




「!
慶次さん…。」


「よっ!ゆきちゃん。」



「慶次さんは混ざらないんですか?
騒ぐのとか好きそうなのに…。」


「好きだけど…たまには宴の喧騒から離れて一人で飲むのもまた通ってやつでね。
それにさ、ゆきちゃんなんだかさみしそうに離れてくの見えたし。」



「…。」





にっこりと笑う慶次にゆきも小さく笑った。





「慶次さん、優しいですね。」




「可愛い女の子に優しくするのは当たり前だって!」








にへっと笑う慶次の笑顔は、まるで満開の桜のように綺麗だった。








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