藤木に絡みつかれながら、部屋に入ってきた金髪美女、もとい かすがの話によると。 謙信に呼ばれ、藤木たちのことを説明されたあと、 「おそらく、けいじたちがどこへいったのか しらずにでていってしまったのでしょう。まようといけませんから、かすが、へやまであないしてあげてください」 と、この世のものとは思えないほど美しい笑顔(かすが談)で命じられ、藤木を案内することになった…、そうなのだが。 「……なのに、こいつと来たら、わたしに会うなり美人だの胸に触らせろだの…。何なのだこいつは!」 「ほ、ほ、本当に、申し訳ありませんっ!!」 ゆきが戦きながら、頭を畳にこすり付けるようにして謝る。 当の藤木は、全く気にすることなく、かすがをニコニコ…否、ニヤニヤと見つめている。 「ほら、藤木もちゃんと謝って!」 「いやぁ、怒ってる顔も素敵ですね」 「褒める場面じゃないから!」 「恥じらう乙女ってよくない?」 「相槌うちにくい…っ」 ゆきは、申し訳なさそうに委縮した。 「それよりかすがちゃん。何か他に謙信 言ってなかった?」 「……あぁ、」 かすがの発言に、藤木の思考が完全に停止する。 藤木は先程の様子とは打って変わって、興味なさげに頷いただけだった。 ―――かすがたちが部屋から出たあと。 ゆきは渡された着物を手に、困惑していた。 「どうしよう…。私、ちゃんとした着物なんて着たことないのに…」 「だいじょーぶだいじょーぶ。あたしは知ってるから。さ、取りあえず“全部”脱ごうかゆき」 「そっか…ってならないよ!?」 「流石にならないかー…ちっ」 「な、何で舌打ち?」 「え? 幻聴聞こえてんの? ヤバいんじゃない、病院行く?」 「私が悪いの!?」 「はいはいつべこべ言わなーい。…ほれっ」 「きゃぁぁぁ!」 “知っている”というのはあながち嘘ではなかったらしく、藤木はいつの間にやら着物を着ていた。 わいわいと…と言うのか正しいかはさて置き、藤木に手伝われながら、##NAM3##も着物に袖を通す。 「………」 「怖い?」 握られた手が震えているのを見て、藤木は訊く。 謙信が言っていた他のこととは、二人を、皆に会わせよう―――とのことだった。 先日、とある場所での戦が終わった。 戦のあと辺りの脅威がなければ、毎度のように酒宴を開いているそうなのだが、それを今回はまだ行っていないらしい。 その席で、二人に上杉の人々への挨拶を行ってほしい、とのことだった。 「…宴会、やっててくれたなら会いに行かなくてもよかったのかな」 「まぁ、そうコミュ障炸裂させんなって……ほい、でーきた」 「あ…、ありがと」 「どーいたしまして」 綺麗な柄と色に、ゆきの表情が幾分か和らいだ。 「藤木ちゃーん、ゆきちゃーん。もういいかい?」 慶次の声が外からした。 藤木はゆきの手を掴んだ。 「さ、腹ぁ括って下せぇ」 「う………うん」 ―――こりゃ駄目かも。 藤木の嫌な予感は的中した。 慶次に促され、広間へ入ろうとする。が、ゆきの足は止まったままだ。 「…ゆきちゃん?」 慶次の声も聞こえていないのか、返事もしない。 「っ……や…」 「………」 開かれた襖から見えるのは、人だ。 10人やそこらではないもっと大勢の人間が、二人を見ている。 何かを囁く声がする。 それが、ゆきを完全に委縮させていた。 藤木は溜め息を一つ吐くと、前を向いたままゆきに尋ねた。 「さて、コミュ障のゆきちゃんに質問です」 「………?」 「ここに二人の人がいます。片方は、いきなり『腰撫でていいですか?』と訊いてきました」 「………え?」 「もう片方は『初めまして、○○です。突然ですけど、スリーサイズ教えて下さい』って言ってきました。さて、貴女はどちらのお願いを聞きますか?」 「ど、どっちも嫌っ!!」 すっかりいつものようにツッコんできたゆきに、気づかれないくらいに笑みを浮かべた。 「そういうことだよ」 「な、何が…?」 「みんな、あたしたちが何なのか判んないから警戒すんの。だったら、自己紹介しなきゃじゃない?」 「……あ…」 「じゃ、続いて」 と、言うと藤木はいきなり正座した。少し遅れて、ゆきも続く。 丁寧に両手をつくと、お辞儀する。 「異国より参りました、杜若藤木と申します」 「…お、同じく、一羽ゆき…と言います」 「暫くの間、皆様のお世話になりますので、どうぞ宜しくお願いします」 暫しの静寂。 それから、声がした。 「こちらこそ、宜しくお願い致す」 「いやこちらこそ」 あちこちから、温かい声が返ってくる。 ゆきが目を丸くしていた。 「凄い……、ホントに警戒、解いちゃった…」 「ね、簡単なことじゃない?」 藤木が振り返って笑うと、ゆきもどこか嬉しそうに笑い返した。 「ふたりのあいさつもおわりましたね、では…、みなのもの、せんじつはごくろうさまでした。そのろうくをねぎらい、ここにうたげをひらくことをせんげんする!」 『『応―――っ!!』』 謙信の言葉を合図に、酒宴が始まった。 女中に声をかけられ、激しく動揺しながらも、ゆきはきちんと答えようとしていた。 それを見て、藤木は人知れず笑った。 「………あ、お姉さんかわいいっすね! ちょっと腰触ってもいいですか!」 「え、え?」 「だ、駄目に決まってるでしょ! す、すみません…!!」 ← back→ |