兎、月に食される はちや と ふわ
2010/01/02
「もう、電気、消していいか?」
ベッドで何やらもぞもぞしている雷蔵に声を掛ければ、「ん、もうちょっとだけ」と、どことなく上の空な返事が戻ってきた。何をしてるのか気になって、そっと近づき、彼がいる布団の中に滑り込む。私の重みにベッドが軋みを上げたけど、彼の持っているもののせいか、ちっとも、いやらしい雰囲気にはならなかった。彼の隣は温かい。
「絵本?」 「うん。この前、本屋で見つけたんだ。小さい頃に読んだことがあってね」
懐かしいなぁ、と呟く彼の掌中にある絵本は、モノトーンのような、何だか淋しい色彩で、あまり子どもが好むような物ではないように思えた。その事を雷蔵に伝えれば、彼は唇を少しだけ緩めた。
「僕もね、昔は、よく分からないなぁって思ったよ」 「難しい話なのかい?」 「ううん。でも、今ならよく分かる気がするよ」
読んでみるかい、と雷蔵はこちらの方に本を寄せて勧めてくれたけど、私は丁重に断った。
「雷蔵が読んでくれた方が、いい」
表紙にいる二匹のうさぎみたいな、くるり、とした黒い目に、三日月みたいな白い光が浮かんでいて、彼は静かに笑っていた。
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