3メートル先のエンディング はちや と ふわ

2009/12/20

こほり、と小さな咳が聞こえた。煙草を堪能しながら振り向くと、三郎が恨めしげに僕の方を眺めている。クッションに顔の下半分を押しつけているのは、煙避けだろうか、それとも寒さ対策だろうか。睨めつけるような視線だったけど、彼は何も言わなかった。だから僕は銜えたまま体を反転させベランダに肘を付けて空を見上げる。今日は、やけに星がきれいだ。足元にほったらかしてあった空き缶を手にして、すっかり短くなってしまった煙草をそこに押しつける。氷みたいに冷たい(まぁ、実際は中に入れた消火用の水がたぷんと音を立てたから、凍ってるはずもないんだけど)缶は、脂臭さが際立っていた。ぽっかりと空いた飲み口から見える黒は、重油みたいなとろりとしていて、絡め取られそうだった。僅かに覗くフィルターの外側の紙の薄汚れた白さが、底なし沼に沈みかけた骨みたいだった。見なかったふりをして、今吸っていたそれを放り込んだ。もうそろそろ満杯になるから捨てなきゃ、と思いつつ、指は次の一本をもう掴んでいる。

「雷蔵」

3m後ろから、また咳き込みがした。ここで振り向いたら、それがさよならになると知っていて、僕は煙草を銜えた。


(気管支の弱い三郎とヘビースモーカー雷蔵)




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