竹くく(現代)

爪先ほどの暴力だった。竹谷にとっては、それはほとんど他意のない言葉だったのだろう。おそらくは。なぜなら、立ち止まった俺に気づくことはないなかったのだから。けれど、俺には十分すぎた。僅かな痛みしか感じない傷も、治らずの内にまた傷つけられれば、いずれ内側で膿むのと同じことだ。
竹谷は女の方がいいんだろ、そうと言いかけた唇を俺は閉ざした。喧嘩をする意味がもうなかったから。
先を歩く彼が、俺がその空気を飲む音に気づくことはなく、いつしか数メートルの距離ができていた。
「…別れようか」
最初から考えていたかにようにスムーズに紡がれたその言葉を、俺はどこか遠くで聞いているような気がした。あるいは異国の言葉のような。自分自身発した言葉だというのに。
(あぁ…)
振り向いた竹谷の瞳は驚きに揺れていて、ようやく瘡蓋の下で乾くことがなかった膿が白日に晒されたことを、俺は知った。


+++
元々ノンケ竹谷とゲイ兵助。好きになった人が偶々男だった、ってのと、男しか好きになれない、ってのはどこか違って。分かり合えない部分があったとして、竹谷は多分分からないことが分からない。無意識に兵助を傷つけて、兵助もギリギリまで我慢しそうだなって思う。




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