竹くく(妖怪?)

ぱくり、と開き閉ざされたそいつの唇は酷く妖艶なものに思えた。昏い闇がそこに飲み込まれてしまったような、そんな感覚に陥る。この時期には珍しい、とろりとした粘っこい風が吹き抜けた。いや、吹き抜けたというよりも、そいつに集まっていると言った方が正しいのかもしれない。地に落ちて朽ちかけていたはずの花弁が舞い上がり、まるで糸に繰られているかのように、そいつの周りで踊っているのだから。桜吹雪とは違う異様な光景に、俺の口はからからに乾いていた。恐怖に怯えているのを悟られないよう必死に腹の底に力を入れる。
「本当に桜を食べるのか?」
それでも出た声はへしゃげ潰れていた。怖い。怖くてたまらねぇ。けど目を反らしたら、自分もその艶やかな唇に飲み込まれてしまいそうな、そんな気がして必死になってそいつを見つめる。胸をせり上がって来る緊張。心臓が耳にくっついてしまったみたいに煩ぇ。
(…っ)
凝視しすぎてこめかみが痛くなってきた頃、そいつは首を軽く横に振った。ほ、っと重みから呼吸が解放された瞬間、そいつは笑った。
「花だけじゃない…春を食べるのさ」




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春を食べる兵助くんと季節の番人竹谷くん。




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