鉢久々コピ本サンプル

※いつもより若干R度合いが高めです。

「偽物しか愛せないんだ」

 ぼんやりとした意識の隅で俺は彼の口癖を聞いた。体にはまだ彼が穿った熱が残っている。それは俺の中で蜷局を巻いて密かに燻り、気炎を吐き続けていた。その分、外気に曝されている膚が急激に冷えていき、朧気だった思考がはっきりと定まりだして。ぶる、っと身震いをした俺はケットを肩口まで引き上げ、投げ出していた裸体を折り曲げその中に押し込む。

(偽物、か……)

今は暗すぎてほとんど見えないが、三郎の言葉通りこの部屋で丁重に扱われている中で本物はひとつもなく、偽物ばかりだった。普段であれば、もう少しだけ明るい時間にしか出入りしてないだけに、そのことを俺はよく知っていた。それと同時に驚く。一度、闇に呑み込まれてしまえば、本当に今が何時なのか分からなくなる。

(このまま、朝が来るのかどうかも怪しいだなんてな)

元々、明るいイメージは全くなかった。ひどく陰鬱なこの部屋は、いつも時間の流れから剥離しているようだった。時計もなければ、日が全く当たらず太陽の動きでだいたいの時間を知ることもないからだろうか。刻々と変わりゆくはずの明るさでさえ、曖昧で、あるのは薄闇に溶けた昼と燻った赤が闇に滴った夕方と、深淵に呑み込まれかけていく夜の違いくらいだけで。雨の日ともなれば、いったい何時なのだろうか、というのが分からなくなる。時間の概念が鈍くなる。----------だが、その雨の日以上に、時の流れが分からなかった。朝に逆行していることはないはずなのに、そうと言い切れないのは、あまりに暗いからだろうか。俺にとっては本物、彼にとってはがらくたでしかないものばかりが散乱している昏い場所でのセックスは、ひどく寒いものだった。

(……まぁ、雪が降ってるしな……)

ふ、と目に入ったのは、結露が垂れ落ち始めている窓。部屋が狭いせいか、さっきまでは人息で曇っていたのだが。つぅ、と重みに負け転がっていく水滴の向こうに、ぽっかりとした黒が空く。そこに舞う白。寒いのは、そのせいだろう。
毎晩のように降る雪はこの街を冬に閉ざしていた。永遠にこの季節から醒めないんじゃないだろうか、と心配になるが、日々は進むわけで。三郎と出会ってもうすぐ一年が経とうとしていた。数えた訳じゃない。ただ、こんなに寒い時期じゃなかったから、きっと春だったんだろう、という曖昧なものだった。

(まぁ、あの時は、想像もしてなかったよな……まさか、三郎とこんな関係になるだなんて)

じゃぁ、どんな関係なら想像がついたのか、と問われると、答えに窮してしまうが、ついさっきまで、この部屋に作品を受け取りに訪ねた時までは、全く想像もしていなかった。三郎と寝るだなんて。-------------三郎と俺は、贋作師と仲介人という、あくまでもビジネスパートナーだったから。

(まぁ、寝たからといって、ビジネスパートナーっていう関係が変わることはないか)

愛だの情だのない、もっと、即物的なセックスだったから。






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