鉢雷コピ本サンプル

前だったら、出たらすぐにコーヒーに口を付けていた。けど、三郎は、目の前に置かれたカップに手も付けず、勉強のことを話し続けている。周囲の話し声が、波紋みたいに重なり合ってぶつかり合って融和されていく。僕たちの会話もそれに埋もれていってしまうような気がした。自分の声が、自分のじゃないみたい。三郎の声が、遠い。

「まぁ、やりたいことだからあきらめる気はないけど」

目の輝きが違う。僕と話していても、僕を通り越している。ずっとずっと遠いところを見据えている眼差し。ぽつり、と淋しさが胸に灯った。それは夜明けに消えていく星みたいなものだった。確かに存在はしているんだけど、明るいときは隠されていて。こうやって、ふと冥んだ瞬間に、顔を覗かせる。

(三郎が夢なんてもたなければよかったのに)

思っちゃいけない、と分っていても、押し殺すことができない。カップの底の埋もれたレモンの皮みたいに、ふと濁ってしまった折には、必ず浮かび上がる感情。けど、そんなこと微塵も思っていないよ、そんな感情知らないよ、と表面上は隠して、三郎と話している。そんな自分が、僕は嫌いだ。コーヒーと対極的なはちみつレモンの鮮やかさが、目に染みた。





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