06-夜明けの食事-


uta06



































「さて、今日は何を作ろうか…」



軽くシャワーを浴びた後、髪の毛をドライヤーで乾かしながらリオは献立を考えていた



材料調達の最中に出くわし自分が喰種であることがウタにバレてしまったわけだが、

リオとしてはちょっとしたゲーム程度のかくれんぼだったから喰種であることを知られたところで何の問題もない



むしろ一緒に食事ができる、自分の料理を食べてもらえることが嬉しいと思っていた



「煮込みハンバーグにでもしようかな」



髪を乾かし終えてキッチンに立つ

先程調達した材料と小瓶に入っている調味料をシンクに準備して調理開始



肉をミンサーに入れてひき肉にすることから始めて手際よくハンバーグを作っていく







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1時間ほどが経過してハンバーグを煮込むシチューから漂う香りがリオの鼻に届いた



「いい匂い…」

「ほんとだ。すごくおいしそう」

「ちょ、いつの間に家に」

「リオさんの邪魔しちゃ悪いと思って」

「かといって無断で侵入するのはどうかと」

「おじゃましてます」

「…はいはい」



リオの肩口から突如顔をのぞかせたウタ

最初に彼の店へリオが訪れた時も同じような光景があった気がする



「煮込みハンバーグ作ってるから、もうちょっと待って」

「煮込みハンバーグ?」

「あそこにあるミンサーでひき肉にしてから丸めて焼いたハンバーグを、血とか骨と一緒に煮込むの」

「へぇ…そんな食べ方があるんだ」

「ただスライスしてソテーにするだけなんてつまらないし時代遅れだと思うのよね私」



リオはウタを自分の身体から剥がすと食器棚から皿を取り出した

黒い陶器に白で装飾された皿にウタは興味を示したらしくリオの手元を覗き込む



「美食家の彼はどうなんだろうね」

「美食家?」

「喰種レストランってところに通ってるらしいよ、彼」

「ふーん…レストランなんていかなくても、自分で作るのがいいのに」



コンロの火を消してからハンバーグとシチューを皿に盛り付けて食卓に並べた

赤黒いシチューに浮かぶハンバーグの周りには白くて小さい、おそらく歯と思われるものが添えられている



「おいしそう」

「召し上がれ」

「いただきます」



ウタはまずナイフでハンバーグを一口大に切って口に運んだ

普段の食事でナイフやフォークを使う喰種は少ないが、特に不慣れな様子もない



「リオさんって、すごいんだね」

「んー?何が?」



リオはパクパクと自分お手製のハンバーグを食べながら首をかしげた



「料理も、僕のマスク作りとどこか似てる気がしたんだ。それで、すごくおいしい料理を作れるリオさんはすごいなって」

「口にあったようで何よりだよ」

「また…食べにきてもいいかな?」

「食材の調達、たまに手伝ってくれるならいいよ」



グラスに水を注いで口を潤す

どこかリオの表情は嬉しそうだった











食事を終えると今度はウタがリオを自分の店に呼んだ



「リオさんのマスク、作らせてくれないかな」

「マスクならガーゼのやつあるけど…」

「口元だけじゃ心もとないよ。今の白鳩は結構優秀みたいだし、心配」

「…じゃあ、お願いしようかな」

「断られちゃっても作るつもりだったしね」

「うん、だと思った」

「じゃあそこ、座って」



作業台横においてある椅子に座らせ、ウタはメジャーでリオの頭のサイズを測り始める



「リオさん、ここに来る前はどこにいたの?」

「んー…忘れた」

「新しい服のデザイン、見たいな」

「あ、ウタをモデルにして一着書いたのがあるよ」

「僕?それは嬉しいな」



喋りながらではあるが着実に頭の周り、顔の横幅、口の幅、そんなところの長さ何に必要なんだと思うところまで細かく測っていた



作業台からスケッチブックを取り出してペンを走らせる



「リオさん、好きな色は?」

「黒」

「うん、そうだと思った」

「あとね、赤とか、紫、銀も好きだよ」

「お店の絨毯赤色だったね」

「赤はボルドーとか、赤黒い色も好き」

「リオさん前世は闘牛だったの?」

「え、それやだな」



ウタの手によってリオの姿とスケッチブックの間で視線が行き来しマスクのデザインが少しずつ書き足された



顔右側半分を覆う土台に左の目元からは羽のような形が飛び出している

羽の根元に目がくるのか根本の真ん中には穴があった



どこか西洋のマスクを彷彿とさせるデザインにウタはまだ足りないと書き加えていく



口には微笑が浮かべられ牙を覗かせた



「うん、いい具合にモチベが上がってきてる」

「この羽いいね。私好き」

「ハーフマスクでよかった?」

「口元しか隠したことなかったから初体験」

「店に置いてあるマスクかぶってみていいよ」

「ウタが作ってくれるデザインならどんな形でも着けるよ」

「そういってもらえるのは嬉しいけど、リオさんが着けてて一番しっくりくるものにしたいんだ」



リオは店内を見回して真っ白なマスクを手に取った

顔の左半分が覆われるタイプのハーフマスク

マスクには毒々しい草花のような模様が張り巡らされている



「おー…やっぱり片目隠れるって慣れないね。穴あいてても視界が狭いや」

「目元、隠さないほうがいい?」

「んー…穴の部分をもう少し大きくしてくれたら大丈夫だと思う」

「じゃあモノクルみたいにしてみようか」



マスクのデザインはしばらく続き、満足行くデザイン画が完成するとウタは早速製作に取り掛かった



リオも店内をしばらく物色したあと静かに店を出る



シンと静まり返った扉の前で明けてきた空を見上げ鳥が飛んで行く姿を見送った













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(ファッションマスクならうちでもおけるかな…)







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